赤い雪 Red Snow(あかいゆき れっどすのう)
配給:アークエンタテインメント
監督:甲斐さやか(かい さやか)
脚本:甲斐さやか
出演:永瀬正敏(ながせ まさとし)、菜葉菜(なはな)、井浦新(いうら あらた)
公開日:2019/2
ジャンル:サスペンス、ヒューマン
「赤い雪 Red Snow」は30年前に誘拐事件が発生した雪の街、事件の被害者となった弟の兄、容疑者女性の娘、真相を追い求める記者が相見えることで動き出す新たな事件を描いた作品です。
監督・脚本は東京都出身の甲斐さやか さんです。短編映画「オンディーヌの呪い」や、大林組やZoffのTVCMでの監督も務めています。本作品は長編映画の初監督作品です。
誘拐事件で弟を失った兄役を、宮崎県出身で、映画「隠し剣 鬼の爪」やテレビドラマ「私立探偵濱マイク」等、数多くの映画やドラマに出演されている永瀬正敏さんが演じています。
誘拐事件の容疑者の娘役を、東京都出身で、「自殺サークル」や「YUMENO」等の映画をはじめに、テレビドラマやNHK教育テレビの「スペイン語会話」にも出演されている菜葉菜さんが演じています。
そして、二人を繋ぐ事件の真相を追う記者役を、東京都出身で、映画「ピンポン」や「光」、テレビドラマ「アンナチュラル」等、数多くの映画やテレビに出演されている井浦新さんが演じています。
他にも、夏川結衣さん、佐藤浩市さん、イモトアヤコさん、好井まさお さん、等々、豪華な出演者となっています。
監督自らが書き下ろした「赤い雪」の小説がKADOKAWAさんより発行されています。尚、本作品は過去に発生した少年失踪事件をベースにしているとのことです。
あらすじ
吹雪で視界が遮られたなか、男性の乱れた息遣いだけが聞こえています。ホワイトアウトではなくグレーが混ざったような吹雪の中、唯一目に映るのは揺れ動く赤い上着です。逃げるように遠ざかっていきます。
追いかけているのは少年か、大人か、傘もささずに長靴で歩いている男性、視界が開けたとき、そこはどこかの街中でした。雪はやんでいて、男性の足元はおぼついています。融雪装置が錆びているのか、どこか赤みを含んだ雪が路肩に残っています。男性はある場所で足を止めます。
陶芸の工房で陶器の出来を確認している男性がいます。彼の名前は白川一希(しらかわ かずき/永瀬正敏)、漆の仕事に携わっています。
そこに器を作る木地師の男性(坂本長利)が近づいて来て、棚にあるものを持っていくように白川に伝えます。彼は白川のことを評価しているようです。雪みたいに手のひらに載せると消えてしまう漆がいいと、頑張ってなと、去り行く白川の背中を見送っています。
海の近くの小屋、そこが白川の作業場です。道具を使って漆で器を装飾していく白川、彼は30年前に、弟を誘拐事件で失っています。
夜、家の扉をたたく音、元刑事(吉澤健)の家を訪ねたのは、記者の木立省吾(こだち しょうご/井浦新)でした。
木立の目的は、過去に発生したタクミくん誘拐事件と、タカダユキオ放火事件、二つの事件に関する備忘録を入手することでした。
元刑事は尋ねます。なぜ、今さらになって過去の事件を追い求めるのかと。木立は答えます。裁判のときは駆け出しの記者だったが、今なら真実を明らかにできると。
木立は続けます。当時容疑者となった江藤早奈江(えとう さなえ/夏川結衣)に娘がいたことを覚えていますか、と。その娘は現在36歳になると。放火事件で全焼になった民家から発見された幼児の白骨遺体はタクミくんではないかと、タクミくんの兄は今では普通に暮らしていると、木立は答えます。
さらに木立は続けます。娘の居場所を発見したと、その娘は早奈江から認知されずに監禁状態であったことから、二つの事件を目撃しているはずだと、場合によっては共犯者だったのはないかと。早奈江は未だに行方知らずであり、娘に真実を語ってもらうと。
海が見える家、自転車でどこかに向かう女性がいます。彼女の名前は江藤早百合(えとうさゆり/菜葉菜)、フードをかぶって移動する彼女は、民宿で働いていますが、スーパーで万引き、民宿で客が不在のときに窃盗をするなど、生活が荒んでいます。
彼女には宅間隆(たくま たかし/佐藤浩市)という同居人がいます。
海、ボートの上で漆を塗っている白川、波の満ち引きの音が聞こえる中、作業小屋に戻ろうとすると木立が待っていました。
ルポライターと自己紹介をした木立は、弟さんの事件の真相を知る最後のチャンスだと思いますと白川に語りかけます。
そして、過去の事件の被害者の兄、容疑者の娘、事件の真相を追う記者が相見えることで、封印されていた記憶から事件の真相が紡がれようとします__
感想
鬱々とした雰囲気が漂う作品です。「私の男」しかり、「ミスミソウ」しかり、雪と血が描かれるサスペンス作品、重苦しいイメージの作品を私は好むのかもしれません。
映像で自然の雪をきれいに魅せることは難しいと「ミスミソウ」の内藤瑛亮監督のインタビュー記事か何かを読んだ記憶があるのですが、こちらの作品はその点を活かして、写実的に雪を活用している印象です。
また、こちらの作品は血の雨のような非日常的な鮮血の演出を用いるのではなく、主人公が漆職人であることを利用して、漆の精製作業(クロメとナヤシ?)で血を連想させる赤い液体が滴る様子を描いているのが印象深かったです。
うだつの上がらない空虚な人物像でありながら、強い存在感がある永瀬正敏さんや井浦新さん、狂気と閉塞感を訴えてくる菜葉菜さんや佐藤浩市さんといった俳優陣の名演も光ります。
ラストシーンは視聴者に委ねられている部分があります。「私の男」や中上健次さんの小説「岬」、田中慎弥さんの小説「共喰い」は、逃れられない血の呪縛に登場人物がもがいていました。しかし、こちらの作品はそれらとは反対に母の愛、血の繋がりを求めた結果、登場人物が苦しんでいる印象を受けました。そして、それが決して未来永劫に得られないものであるという事実が、より悲壮感を高めている印象を受けます。
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