小説 ~ 肉体の悪魔 ~




肉体の悪魔(にくたいのあくま)
原題:Le Diable au corps
著者名:レイモン・ラディゲ(Raymond Radiguet)
訳者:新庄嘉章(しんじょう よしあきら)
出版社:新潮社
発売日:1954/12 (原題発表 1923)
ジャンル:恋愛





「肉体の悪魔」は、フランス東部を舞台に15歳の青年と婚約者のいる歳上の女性との恋愛劇を多感な青年の目線で描いた小説です。

著者のレイモン・ラディゲさんはフランス出身で、他の著書に「ドルジェル伯の舞踏会」があります。本作品は著者が16歳から18歳の間に書き上げた作品であり、著者はわずか20歳の若さで病気により逝去されています。

訳者の新庄嘉章さんは広島県出身で、本作品の他に、モーパツサンさんの「女の一生」や、スタンダールさんの「赤と黒」等、数多くのフランス文学の翻訳を担当されています。

新潮文庫には表題作の他に、戯曲「ペリカン家の人々」、コント「ドニーズ」が収録されています。



あらすじ

フランス、マルヌ川のほとりのF……町に住む少年、早熟な彼は12歳までの初等教育で善良な生徒を演じていました。アンリ四世校に入学することになっていましたが、汽車通学が早いとの理由で田舎で3年間を過ごしていました。第一次世界大戦が宣戦布告されたときです。

少年は初等教育時代の旧友たちが二日間かかってもできないような勉強を四時間で片付けることができました。マルヌ川のほとりを散歩したり、毎週土曜日に発行される新聞『ル・モ(言葉)』を手に入れるために新聞屋に走ったり、シュヌヴィエールの丘で一日中遊びまわったりです。

少年はその丘で生まれて初めての友達ができました。ルネという少年です。ルネはすでにアンリ四世校に通っていて、同じく早熟なルネと一緒に過ごすことで、自分たちこそが物事を理解でき、女性と遊ぶことができる大人だと思っていました。しかし、そんなルネとの出会いすらも霞ませる出会いが少年を待っていました。


1917年の四月のある日曜日、アンリ四世校にすでに通っていた15歳の少年は、いつものようにラ・ヴィレンヌ行きの汽車に乗りました。彼は父たちと一緒にグランジエ家の人々に会うことになっていました。少年の母親が会長を務める慈善展覧会にグランジエ家の病気の18歳の娘が描いた水彩画を出展する段取りのためです。

汽車が駅に入り、客車のステップに立っていたその女性、マルトを見て、少年は有頂天になりました。少年とマルトは二人で会話を交わします。

少年はマルトとの会話の中で、彼女に婚約者がいることを知ります。その男は兵隊でした。彼女の婚約者の存在に一瞬不愉快になったり、彼女の婚約者の器量の狭さに嬉しくなったりする少年、そして、マルトも少年のことに気があるように少年は感じます。

それまでの両親や妹や親友のルネとは異なる感情をマルトに抱いた少年は、戦争という時代を利用して人妻であるマルトとの逢瀬を重ねていきます__



感想


無責任な男性と、国のために使役している旦那を裏切る女性の、不倫の話です。この部分だけを切り取れば登場人物が叩かれることは容易に想像できます。しかし、本作品は違います。

主人公が青年であるために、相手を想う行動も利己的な考え方も純粋で残酷に映ります。学校での失敗が家庭でバレないか不安を覚えたり、両親の庇護下でどこか無責任感な印象を与えたりする点は、時代を問わず刹那的な快楽を貪るモラトリアム前の若者そのものです。

そして、少年と逢瀬を重ねてしまう女性がいます。婚約者がいて、世間の目があるにもかかわらずです。何もかもを犠牲にしても愛を求め委ねてしまう様は悲劇であり、それが恋愛らしくも思います。

特定の作品だけで比較するのは安直だとは思いますが、早熟な少年と社会の不条理を描いた作品として、学業や就業といった社会制度に重きを置いたドイツのヘルマン・ヘッセさんの「車輪の下」と、恋愛に重きを置いた本作品を読むと、お国柄の違いが感じられます。








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