小説 ~ 車輪の下 ~




車輪の下(しゃりんのした)
原題: Unterm Rad
著者名: ヘルマン・ヘッセ(Hermann Karl Hesse)
訳者: 井上正蔵
出版社: 集英社
発売日: 1992/01 (原題発表 1905)
ジャンル:青春、ヒューマン





「車輪の下」はヘルマン・ヘッセさん著書、周囲の大人の期待と束縛により心身ともに押しつぶされていく少年の苦難を描く青春小説です。

著者は1946年にノーベル文学賞やドイツの文化賞であるゲーテ賞を受賞されています。

著者自身と本作品の主人公の遍歴に似たような部分があるため、自伝的な小説でもあるともいわれています。



あらすじ


ハンス・ギーベンラートはドイツのヴュルテンベルク州シュヴァルツヴァルトにある古い小さな田舎町で暮らす聡明な少年です。

病身だった母親はすでに亡くなっており、父親は特に特筆すべきこともない俗人的な人です。

ハンスはそんな平凡な両親から生まれた非凡な子供であり、頭がよく、他の子供たちに混じっても上品で目立っており、900年の町の歴史の中で突如出現した天才と称され、周囲の期待を集めています。

ハンスはそんな周囲の期待を背負い、エリート街道となる神学校に入学するための州試験受験を控えています。

ハンスも他の子供たちと同様、遊ぶことが好きで、特に釣りが大好きでしたが、1年前から周囲の大人たちによって禁止されており、難関の神学校に入学するための勉学に勤しんでいました。

そんなハンスを心配する大人も一部いましたが、まだ若いハンスにとっては、身近な大人の意見こそが重要であり、悪く言えば、生きていくための知識や経験や情操も周囲の大人によって洗脳されてしまう状態でした。

そんなハンスにも大切と思える友人や恋に胸を焦がす意中の人が現れたり、雄大な自然や労働の喜びを知る機会も訪れます。

一方で、理不尽な社会の制度や不条理、身勝手な大人たちの意見という大きな重圧に押し潰されそうにもなるときもあります_



感想


将来有望な少年が社会の不条理に押しつぶされていく話です。

心の病気や社会の圧力、扱っているテーマは重たいのですが、のどかな田園風景を喚起させる情景描写や思春期の繊細な情操描写が美しく丁寧に記載されているため、作品全体としてはテーマほど暗くなっていないことが本作品の特徴であり魅力だと思います。

この作品、自伝的なものとも言われていますが、作者は誰に向けて、この作品を伝えたかったのかが読んでいて気になりました。理不尽な社会に向けてなのか、それともこの物語のハンスにはいなかった母親や自分を理解してくれた周囲の人々に向けてでしょうか。

読む時期やタイミングで感想が変わりやすい作品だと感じました。


何より1世紀も前に発表されたこの作品が、小学生から始まる受験戦争や自殺者の多い21世紀の日本でも普遍的なテーマを与えていることがすごいです。

もし作者が現代に生きていたらインターネットを利用したコミュニケーションをどのように捉えるのかが非常に気になります。

インターネットのコミュニケーションは主人公のハンスの孤独や苦悩を助けてくれるツールとなりえるのか、それともいたずらに助長させるだけのものなのでしょうか。

時代を超えてもなお名作と呼べるいい作品でした。







コメント