ナイロビの蜂(ないろびのはち)
原題:The Constant Gardener
著者名:ジョン・ル・カレ(John le Carré)
訳者:加賀山卓朗(かがやま たくろう)
出版社:集英社
発売日:2003/12 (原題発表 2001/1)
ジャンル:サスペンス
「ナイロビの蜂」は、ケニアのナイロビで妻を殺害された英国外交官が、事件の背後に隠されたアフリカが抱える人権問題と大手企業の陰謀、事件の真相を解明していくサスペンス小説です。
著者のジョン・ル・カレさんはイギリス出身で、数多くのスパイ小説で有名です。「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」(※邦画タイトルは「裏切りのサーカス」)、「スクールボーイ閣下」、「スマイリーと仲間たち」のスマイリー三部作といった著書があります。
訳者の加賀山卓朗さんは愛媛県出身で、本作品の他に、デニス・ルヘインさんの「ミスティック・リバー」をはじめとして、数多くの英国小説の翻訳を担当されています。
本作品は、2005年にフェルナンド・メイレレスさんが監督、レイフ・ファインズさんとレイチェル・ワイズさん主演で映画化もされています。
あらすじ
ケニアのナイロビにある英国高等弁務官事務所、時期は一月下旬、ナイロビでは一年で最も暑い季節、雨を待ちわびる季節、定例の祈りの集会が開催される30分前、事務所長であるサンディ・ウッドロウのもとに内線電話がかかってきます。それは秘書からの電話でした。今からそちらに伺いたいという電話、ウッドロウは会議が終わるまで待てないか尋ねましたが、返ってきたのは待てないという回答でした。
報告内容はテッサ・クエイルに関することでした。その名前をウッドロウはよく知っていました。同僚の妻であるということ以上によく知っている名前でした。
追い討ちをかけるように報告が続きます。“ナイロビ警察は、彼女が殺されたと言っています”
ウッドロウは秘書のもとに向かい、事件の詳細を確認します。発見者は岸辺の近くにあるロッジのオーナー、場所はトゥルカナ湖の岸辺、オーナーが手配した車の中には、運転手とテッサの遺体があったということです。運転手は頭部を切り落とされていました。
テッサは運転手と、そして、アーノルド・ブルームというアフリカで援助活動に取り組む医師と三人で出かけていた姿が目下の目撃情報です。アーノルド・ブルームに関しては車内での遺体も、車外での健全な姿も発見されていません。
また、テッサはクエイルの名前ではなく、旧姓となるテッサ・アボットの名前でロッジにチェックインしていました。援助活動時にはその名前をずっと使っていたのではないかと秘書が推察しています。
秘書との会話の後、ウッドロウは高等弁務官事務所情報局長のティム・ドナヒューのもとに向かい、第一発見者のロッジのオーナーと無線で確認をとります。発見されたテッサと思われる女性の身体的特徴、事件前の行動の履歴、そして、テッサが咽喉を切られていたことがわかります。
オーナーとの聴取の後、ウッドロウは事務所の一番若い職員であるイギリス人とインド人のハーフであるギタ・ピアスンのもとを訪ねます。ギタはテッサの親友であり、援助組織と連絡をとることが仕事である彼女はアーノルドのことも知っています。ウッドロウは彼女にテッサとウッドロウの二人の直近の様子を確認していきます。
そして、最後にウッドロウは英国外務省一等書記官であるジャスティン・クエイルのもとに向かいます。テッサの夫である彼のもとに、発見された白人女性の遺体はテッサではないという一抹の望みと、残酷な報告を彼にしなければならないという重責を抱えて。
ジャスティンはテッサの意思を引き継ぐため、事件の真相を明らかにしようと、背後にある巨大な組織の陰謀に立ち向かおうと立ち上がります__
感想
映画「裏切りのサーカス(原題:Tinker Tailor Soldier Spy)」の原作者(著者)であるジョン・ル・カレさんの作品です。アフリカの援助活動に付随する利権や癒着の問題、巨大な企業や政府の前での個人の力を描いた何とも苦い作品です。
映画「裏切りのサーカス」で登場人物が把握しきれないということがあり、そのときは尺の短い映画が原因と単純に思っていました。しかし、本作品を読んでいてやっぱり登場人物全員を正確に把握しきれなかったため、気軽に目を通すという鑑賞方法だと作者の作品を漏れなく楽しむことはできないのかなと思います。訳者のあとがきに記載されてる内容も響かなかったため、じっくりと読めばもっとおもしろいのかもしれません。“主な登場人物”の補足が、より多くの登場人物を網羅していると助かるなと思いました。
ストーリーはとても苦いです。ジャスティンとテッサの歩み、姿や形が変わってともに歩いていこうとする意思、その魅力に惹きつけられます。お互いを尊敬し大切にしているからこその行動、この作品はサスペンス作品とは別に、重厚なラブロマンスの要素も含んでいます。この結末が受け入れ可能かは読後の今でもわかっていませんが、深い余韻を残す作品だと思います。
ウッドロウとグロリアはかつて中国のことわざを引いて納得し合ったことがある―
家に招いた客は魚のようなもので、
三日目には臭い始める。
しかし、ジャスティンは、
日を追うごとにグロリアにとって香しい存在になっていた。
(P.109)
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