映画 ~ そこのみにて光輝く ~




そこのみにて光輝く(そこのみにてひかりかがやく)
配給:東京テアトル
監督:呉美保(お みぽ)
脚本:高田亮(たかだ りょう)
出演:綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉
公開日:2014/4
ジャンル:ヒューマン






「そこのみにて光輝く」は、数年前の事故をきっかけに怠惰な生活を送っていた男性が、パチンコ店で知り合った男性とその姉と出会い、自身とその家族の問題に向き合いながら日常を紡いでいく作品です。

監督は三重県出身で、「なごり雪」、「きみはいい子」といった映画や、数多くの企業のTVCMの監督作品を持つ呉美保さんです。本作品で2014年にモントリオール世界映画祭のワールド・コンペティション部門で最優秀監督賞を受賞しています。

脚本は東京都出身で、「銀の匙 Silver Spoon」や「オーバー・フェンス」といった数多くの映画の脚本を担当している高田亮さんです。

過去の職場でのトラウマから怠惰な生活を送る男性役を、「新宿スワン」や「怒り」等、数多くの映画・テレビドラマの出演されている綾野剛さんが演じています。

主人公とパチンコ店で出会う社交的な男性役を、テレビドラマ「仮面ライダーW」や映画「生きてるだけで、愛。」等の他、テレビコマーシャルや歌手としても活躍されている菅田将暉さんが演じています。

主人公と出会う女性役を、テレビドラマ「リップスティック」や映画「ジョゼと虎と魚たち」等、様々な作品に出演されている池脇千鶴さんが演じています。

他にも、主人公の以前の職場の先輩?役を火野正平さん、主人公が出会う家族とかかわりのある経営者役を高橋和也さんが演じています。

小説「オーバー・フェンス」や「きみの鳥はうたえる」の佐藤泰志さんの小説が原作となっています。

本作品の舞台は原作者の出身地である函館となっています。



あらすじ


アパートの一室でラフな格好で寝ている男性、彼は悪夢を見ています。周囲には岩の山が見えています。聞こえてくるのは粗い息遣いです。岩の隙間には倒れている人が……、そこで彼は目を覚まします。

男性の名前は佐藤達夫(さとう たつお/綾野剛)、以前は採掘現場で働いていましたが、とある事故により現在は無職になっています。

アパート玄関のポストから郵便物を取り出す達夫、彼は北海道の函館に住んでいます。青森から手紙が届いていました。送り主は鈴木佳代、達夫の妹です。

手紙は親の遺骨に関する内容でした。親の遺骨は妹が預かっています。達夫がいつまでもお墓のことを真剣に考えないのは、家族を持たないからだと妹から指摘されます。

妹は函館の見晴らしが良い墓地に申し込みたいと希望を添えています。お兄ちゃんに見に行ってもらいたいと。


達夫は煙草を吸いながらパチンコをしています。退職してからは自堕落な生活を過ごしているようです。

パチンコで遊んでいると、反対の席にいたチンピラ風の男性が火を貸してと達夫に声をかけてきます。達夫はやると言って、持っていたライターを放り渡します。達夫はそのまま受付に移動して、出玉とライターを交換します。

声をかけてきた男は拓児(たくじ/菅田将暉)と名乗ります。お調子者で話し好きな彼は、ライターをくれたお礼をするといって自転車を漕ぎながら、達夫を案内しようとします。達夫は彼とくだらない与太話を交わしながら一緒に移動します。

到着したのは海の近くのくたびれたボロ屋でした。拓児の家には母親と寝たきりの父親、そして姉がいるようです。母親は達夫を見て、拓児に刑務所の友達かと尋ねます。拓児に何か作ってくれと催促され姉が出てきます。

そこで達夫は千夏(ちなつ/池脇千鶴)と出会いました。達夫はキッチンに立つ千夏の後姿に目を奪われます。千夏はチャーハンを作ってくれました。お皿に盛り付けることもなく、フライパンごとテーブルに料理が並びます。達夫はそれを口に運び、美味いですと答えます。

何している人?と千夏に質問されます。特に何も、と達夫は答えます。奥さんは?と千夏に質問されます。いないです、と達夫は答えます。

二人は家の外に出て、海岸沿いを一緒に散歩します。拓児と千夏の父親は脳梗塞を患っています。寝たきりですが性欲だけは旺盛で喘ぎ声がうるさいため、拓児は親父なんか殺してしまえと千夏に言うこともあります。性欲を抑える薬を使えばいいが、それを使用すると脳が早く駄目になってしまうと達夫は千夏の話を聞いています。



ある日、アパートの自室で寝ている達夫は車のクラクションに起こされます。窓を開けるとそこには以前の職場の同僚(火野正平)がいました。毎日何している?と問われた達夫は、パチンコと散歩と答えます。その男性は達夫に、みんな会いたがっていると、おめぇのせいじゃねえと、声をかけます。

夜、酔いがまわっている達夫は、たまたま立ち寄ったバーで偶然、千夏と遭遇します。千夏はそのバーで売春をしていました。達夫は千夏に、いくら、と尋ね、千夏は、八千円、と答えます。

達夫は嘲笑を浮かべ、千夏はそんな達夫の頬を叩きます。達夫はその場から立ち去ります。



採掘場、ダイナマイトを使って発破の準備に取り掛かる現場の様子、達夫は前職のトラウマを未だに引きずっています。



別の日、千夏に対する仕打ちを謝りに行こうとする達夫、千夏の家の前ではホタルブクロが花を咲かせていました。

仲直りしようとする二人、達夫は千夏から家族のことを聞きます。

拓児は酔った勢いで喧嘩中に人を刺して刑務所にいました。そして、職に就くことを条件として、現在は仮釈放中です。前科のある拓児のために、千夏は知り合いの造園業を営む中島(高橋和也)に拓児の面倒を見てもらっています。

中島は妻子持ちで、周囲の人間からも好評です。しかし、中島は密かに千夏に好意を寄せていて、半ば強引に不倫関係を結んでいました__



感想

過去のトラウマから自暴自棄な生活を送っていた男性が、閉塞感漂う家庭で生きる姉弟と出会いお互いに惹かれあっていく作品です。

出演者が魅力的でした。綾野剛さんと池脇千鶴さんは二人とも妙にあでやかであり、菅田将暉さんは方言のイントネーションに加えてキャラクターの印象が抜群でした。

悲哀で重苦しい作品だと思います。主人公が過去のトラウマから自堕落な生活を送っており、再起のために手を差し伸べてくれる人との出会いが描かれるのかと思いきや、出会ったのは主人公以上に閉塞感と哀愁が漂う姉弟だったと、不幸の影が忍び寄る作品です。

謎の偉人、ジェラール・シャンドリさんの残した名言に、「私たちが一生を終えてこの世に残るものは、生涯をかけて集めたものではなく、生涯をかけて与えたものである。」とありますが、千夏が与えてきたもの、 拓児が与えようとしたもの、達夫の存在、それらの意味を考慮すると、それぞれの終盤のシーンや行動が何とも感慨深くなります。

千夏と拓児の家の前にホタルブクロが咲いていたことが印象に残りました。太陽や空へではなく、地面に向かってきれいに花を咲かせる植物を持ってきたことが心にくいと思います。










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