小説 ~ 黒い犬 ~




黒い犬(くろいいぬ)
原題:Black Dog
著者名:スティーヴン・ブース(Stephen Booth)
訳者:宮脇裕子(みやわき ゆうこ)
出版社:東京創元社
発売日:2003/8 (原題発表 2000/10)
ジャンル:サスペンス





「黒い犬」はスティーヴン・ブースさん著書、イギリス、マンチェスター近くの村で少女の失踪事件が発生し、地元で育ち人望の厚い刑事と、都会から来た有望な刑事の二人が、時に協力し、時に反目しながら事件の解決を目指すサスペンス小説です。

こちらは著者の「ベン・クーバー&ダイアン・フライシリーズ」第一弾の作品です。

本作品は推理雑誌「デッドリー・プレジャーズ」が発表するバリー賞を受賞しています。

訳者の宮脇裕子さんは東京都出身で、本作品の他に、アリサ・クレイグさんの「殺人を一パイント」の翻訳等も担当されています。



あらすじ

イギリス、マンチェスター近郊のピーク地方にあるモーヘイ村、どこかに出かけようとする一人の老人を孫娘が止めようとします。

老人の名はハリー・ディスキン、元鉱夫であり、頑固な一面を持ち、愛犬である黒いラブラドール犬のベスの散歩が日課で、昔の仕事仲間であるウィルフォード・カッツとサム・ビーリーの良き友人がいます。

孫娘の名はヘレン・ミルナー、祖父と祖母のことを気にしています。彼女が祖父を引き止めた理由も、病気を隠しているのか、何かを思いつめている様子を彼から感じとったからです。

二人が会話する上空で<警察>と書かれた青いヘリコプターが轟音を鳴らしながら近づいてき、会話を散らかします。そのヘリコプターは村の行方不明となった女の子の捜索にあたっているようです。


女の子の捜索のため、同僚と一緒に森の中、密生した草をかけ分けている一人の刑事がいます。彼の名前は、ベン・クーパー、ピーク地方のイードゥンデイルの町にある、E地区警察本部の刑事です。

同僚と事件に関することや雑談を交わすクーパー、彼にはある野心があります。E地区で近々部長刑事のポストが空くという話があり、同僚の誰よりもその地域に詳しい彼は、そのポストを虎視眈々と狙っています。

彼が部長刑事になることを、誰よりも彼の母親が望んでいます。病んで老いている母親の苦痛や悲しみを和らげるためにも、彼は母の望みを叶えることを切実に願っています。


場面が変わって、<丘の館>と呼ばれる白い大邸宅、行方不明になっている15歳の娘、ローラ・ヴァーノンのことが気がかりなグレアム・ヴァーノンとシャーロット・ヴァーノンの夫妻、警察のことや最近解雇したリー・シャラットという名の庭師のことを話し合っています。


さらに場面が変わって、E地区の警察本部、ローラ・ヴァーノンの捜索にほぼ全員が駆り出されている中、デイヴィッド・レニー部長刑事とダイアン・フライ刑事が残っています。二人はE地区の日常的な犯罪を担当する役回りをしていますが、フライは行方不明事件の情報も常に確認しています。

フライは都会から赴任してきたばかりの刑事ですが、野心家であり、また能力も申し分のない刑事のようです。

そんな折、扉から警部が現れて、行方不明事件に関する新たな発見があったとフライに応援要請が入ります。


地元で育ち人望の厚い刑事であるクーパーと、都会から来た有望な刑事のフライ、異なるタイプであり、昇進のライバル関係にある二人が事件解決に臨みます__



感想


英国を舞台にしたサスペンス(ミステリー)です。本格ミステリーのようなトリックがあるわけではなく、フーダニット、ホワイダニットを楽しむ作品です。

少ない手がかりから犯人を追跡していく英国のミステリー・サスペンス小説という点は、以前に記事にしたダニエル・シルヴァさんの「英国のスパイ」と似た部分があります。

ただし、両作品を比較したときの大きな違いとして、主人公の人間味や、事件の舞台の規模がまったく異なる点が挙げられます。

「英国のスパイ」は、主人公が卓越した能力を持ったスパイであり、超人の印象です。一方で、本作品の主人公二人の刑事は優秀な一面もあれば、足りない一面も持っていたり、未来への不安を持っていたり、過去のトラウマを抱えていたり、キャラクターに共感しやすいです。

また、巨大組織のバックアップを受けて様々な国を飛び回る「英国のスパイ」とは異なり、こちらの作品は英国の田舎の田園風景や慣習を楽しめます。

派手さを重視したサスペンスやミステリーに食傷気味な場合は、本作品のようなどっしりとしたものを味わうのも楽しく感じます。



「最近の野菜には特別製の肥やしが必要なんだ」

「血と骨。野菜にはそれが足りないからな」ハリーがいった。





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