花鳥の夢(かちょうのゆめ)
著者名: 山本兼一(やまもと けんいち)
出版社: 文藝春秋
発売日: 2013/4(2015/3)
ジャンル:歴史、美術
「花鳥の夢」は山本兼一さん著作、安土桃山~江戸時代に活躍した日本絵画史上最大の画派である狩野派の代表的な絵師である狩野永徳を主人公として、絵への純粋な探求、派の代表者としての責務やライバルへの妬心といった彼の生涯を描いた歴史長編小説です。
著者の山本兼一さんは京都府出身の作家であり、他の著書に、2004年に松本清張賞を受賞した「火天の城」、2009年に直木賞を受賞した「利休にたずねよ」といった作品があります。
あらすじ
室町時代後期、永禄3年(西暦1560年)の春、18歳の狩野永徳(かのう えいとく)は年上弟子の友松(ともまつ)を引き連れて近衛前久(このえ さきひさ)の屋敷に向かっています。
永徳は浮き足立っています。その理由は、緋連雀を生け捕りにした、という連絡があったからです。
活き活きとした緋連雀の美しく変化に富んだ羽の色を近くで見て絵を描きたいということで、近衛家の鷹匠(たかじょう)である野尻久兵衛に去年の冬から頼んでいました。
屋敷に到着した永徳は緋連雀を目の当たりにして、前久から座興としてその場で絵を描いてくれないかと依頼されます。
自惚れでも傲慢でもなく、繊細で強靭な筆使いのできる絵師などいない、絵なら誰にも負けないという自信を持っている永徳はその場で見事な絵を描き、前久やその周りの者たちを感嘆させます。
そして、前久が何かを思い出したように紙を取り出し、永徳がそれを受け取って中を確認してみると見事な緋連雀の墨絵が描かれていました。
その絵を見て“うまい__”と永徳は思わず心の中でうなります。永徳が詳細を聞くところによると、その絵は鷹匠が緋連雀を捕獲したときにたまたま居合わせた永徳と同じくらいの齢の北陸から来た女人が、絵を描かせて欲しいと野尻に依頼して、そのときに描いた絵をもらったものであるということでした。
ただ、前久に女人の絵の出来栄えを尋ねられた永徳は“悪くはありません。しかし__”と、写生としては巧いが画題にならないであろうと前久に回答します。
「絵は端正が第一義」それが狩野家に伝わる暗黙の画法です。
一方で、家に戻った後も永徳は女の残した絵が気になります。“_絵は、なにを描いてもかまわないのだ。”、そんな当たり前のことを永徳に思い出させたくれたその絵、偶然にも狩野家の教えに近頃は疑問を抱いていた永徳にとってその絵はとても印象深いものとなり、永徳はその女を一目見てみたいと思うようになります__
感想
時代・歴史小説はあまり読まないのですが、安部龍太郎さんの「等伯」がおもしろく(⇒そのときの記事)、その作品の主人公、等伯のライバルとなる存在である狩野永徳を主人公とした小説があるということで本作を読みました。
個人的な心情としては、能登出身であり、狩野派という一大派閥に対抗するという判官贔屓の視点で等伯の方をどうしても応援したくはなってしまうのですが、本作を読むことで永徳の派閥の棟梁であるからこその苦悩や重圧、永徳の絵に対する自負心や歓喜を感じることができておもしろいです。
2作品を比較すると物語の展開には色々と差異があるのですが、両者が関わるもっとも印象的な部分として、等伯のほうは家族愛、本作のほうは男女愛が挙げられると思います。
絵に対する飽くなき探求心が描かれるというのは読む前からある程度予想してしまうのですが、狩野永徳という歴史上でも上位にくる著名な絵師を主人公として、ここまで嫉妬心を剥き出しにして話を展開させていく点も少しおもしろいなと思います。
等伯のときと同じく、この小説を読んだ後に関連作品の実物を見ればまた感慨深いものもあるのかなと改めて思いました。
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