映画 ~ 彼女がその名を知らない鳥たち ~



彼女がその名を知らない鳥たち(かのじょがそのなをしらないとりたち)
配給:クロックワークス
監督:白石和彌(しらいし かずや)
脚本:浅野妙子(あさの たえこ)
出演:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李
公開日:2017/10
ジャンル:ヒューマン、サスペンス




「彼女がその名を知らない鳥たち」は、一人のやさぐれた女と過去・現在・未来の三人の男が関わることで発生する不穏な出来事とその行末を追うヒューマンサスペンス作品です。

「凶悪」や「孤狼の血」の白石和彌さんが監督、ドラマ「神様、もう少しだけ」や映画「NANA」や「ママレード・ボーイ」の浅野妙子さんが脚本を務めています。

本作品の一月前に公開された「ユリゴコロ」と同じ、沼田まほかるさんのミステリー小説が原作です。


あらすじ


下品で貧相、絵に描いたような金も地位も魅力もない歳上の男、陣治(じんじ/阿部サダヲ)と同棲している十和子(とわこ/蒼井優)は、陣治を嫌悪しながらも、陣治が稼いだ金で怠惰な生活を送っています。

働くそぶりもなく、お店に理不尽なクレームを入れ続けるという非生産的な生活を送っている十和子、過去に付き合った男である黒崎(竹野内豊)のことを忘れられずに過去に一緒に撮った映像を眺めて想い過ごす時間もあります。

十和子は姉(赤澤ムック)から怠惰な生活、黒崎のこと、陣治に対する態度等を責められています。

あるとき、故障してしまった思い出の腕時計の件で十和子がクレームをいれ続けていたデパートの時計店から、一人の男(松坂桃李)が謝罪という形で十和子の住んでいるアパートを訪ねてきます。

その男は水島と名乗り、その端正な容姿も活かして十和子に謝罪していく過程で、十和子と不倫関係を持つこととなります。

しかし、そんな十和子の変化に呼応するかのように、周囲にも不穏な変化が現れ始めます_



感想


ほぼ同じ時期に公開され、沼田まほかるさんが原作、松坂桃李さんが主演という共通点を持つ本作と「ユリゴコロ」、もちろんストーリー、監督、演者等、様々な部分で違いはあるのですが、「ユリゴコロ」が冒頭から謎や狂気がノンストップで続いていくのに対して、本作品では右肩上がりに謎や狂気が深まっていくのが大きな違いかなという印象を受けました。

どちらも謎や狂気の中で愛について問いかけているのは同じだと思います。


この作品は各役のはまり方がよかったです。陣治の下品な食事の仕方、十和子の無気力感とねちっこい関西弁、水島の謎の色気、思い出すことがたくさんあります。


タイトルの意味


原作を読んでいない以上、何とも言い難い部分もあるのですが、この少し長いタイトルの意味も気になりました。

映画では終盤に大量の鳥たちが飛び立つ印象的なシーンがあります。

“彼女”は間違いなく「十和子」を指していると思います。“鳥たち”は「黒崎」、「陣治」、「水島」を指している可能性が高いですが、何とも言えません。
某漫画の影響で「黒崎」はクロサギを暗喩しているのかなと思い込んでしまうのですが、恐らく、ゴミを漁る下品な鳥の代名詞とされる“カラス”と、メーテルリンクの童話「青い鳥」の幸せの“青い鳥”がそれぞれのイメージ像であり、“鳥たち”と考えるのが個人的にはしっくりきます。

一方で、“鳥たち”を雛鳥と親鳥とする考え方もあるようで、なるほどなと思います。その考え方であれば、最後に鳥たちが飛び立つシーンは巣立ちという意味で捉えることができます。

他にも鳥が「解放」のシンボルという意味を持つこと、「青い鳥」的な話も感じる「ロストパラダイス・イン・トーキョー」の監督である白石和彌さんが本監督作品を務めていること、“鳥たち”は“ラブバード”のような存在ではないかということ、といった様々な要素が考えられる点が楽しいです。



観ている最中は「ユリゴコロ」のほうが好きかなと思っていましたが、もう1度観たいという意味では、こちらもお勧めできると思います。

ただ、陣治の最後の選択は本当にあれでよかったのでしょうか、“愛と呼べるか”が本作のキャッチコピーにあるようですが、個人的にはその部分がひっかかっています。




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