小説 ~ となり町戦争 ~




となり町戦争(となりまちせんそう)
著者名:三崎亜記(みさき あき)
出版社:集英社
発売日:2005/1(2006/12)
ジャンル:ヒューマン





「となり町戦争」は町内の広報誌に突然と記載されていた【となり町との戦争のお知らせ】から端を発する非現実的な戦争を、町内の1人の男性の目線から語られる作品です。

著者は福岡県出身の三崎亜記さんです。他の著書に「失われた町」があります。2004年に本作品で、小説すばる新人賞を受賞されています。

本作品は2007年に渡辺謙作さん監督、江口洋介さん主演で映画化されています。



あらすじ

仕事帰り、1人暮らしのアパートの郵便受けに入っていた町内誌「広報まいさか」に記載されていたお知らせ、そこには町内各所で9月1日から3月31日までの予定で、となり町と戦争します、と書かれていました。北原修路が最初に心配したことは、開戦後の通勤路に関してでした。

舞坂(まいさか)町に住む彼ですが、地元の人間ではありません。たまたま職場から通勤40分以内で駐車場付きの物件で探し当てたアパートが舞坂町にあったというだけです。となり町は職場と舞坂町の間にあります。突然のお知らせに対して、戦争がどのように進められるのか、彼が知る由はありません。

9月1日、開戦の日、通常より30分早く家を出て職場に向かった彼、しかし、変わった様子は特にありませんでした。ラジオの地元のニュースは近隣で発生した殺人事件のことで、職場の話題は台風のことでした。

彼は次第に戦争に対する意識を忘れがちになっていきます。そんなある日の晩御飯のとき、何気なく目に留まった「広報まいさか」の町勢概況、そこには町の人口や転出数の情報と一緒に、戦死者数が記載されていました。

戦争とは無縁の日常的な生活、しかし、ある日、「舞坂町役場総務課となり町戦争係り」から郵便が送られてきます。その2日後、彼の職場にとなり町戦争係りの香西(こうさい)と名乗る女性から電話がかかってきます__



感想


「戦争」と聞くと、歴史や海の外の出来事をイメージしてしまいます。しかし、この作品では「となり町戦争」という身近な言葉と戦争を結び付けています。その着想が素敵でした。

本作品では銃や硝煙の匂い、轟音や悲鳴といったものが登場しません。「となり町」と身近なものを題材に取り入れてなお、戦争をどこか遠い出来事のように扱っています。作中でドラマチックな過程がほとんど見られません。結果だけが淡々と語られます。そのため、物語として物足りない部分もあります。しかし、そうすることによって、日常と戦争の曖昧さと疎遠な部分が程よい感じで描かれていると思います。

個人的には主人公と香西さんが親密になる過程はもっと描くべきだったか、もしくはもっとドライな関係で進めて欲しかったと思います。ロマンスが違和感でマイナスに作用していると感じました。別章の2人の関係は長い付き合いがあったことがわかるため、よかったのですが。



僕の影は、香西さんの影と重なっていた。
だが、二人の影が重なっても、影の濃さはかわらなかった。
重なった部分は、僕の影であり、
また香西さんの影でありながら、
「二人の影」ではなかった。





 

コメント