小説 ~ ミシン ~




ミシン
著者名:嶽本野ばら(たけもと のばら)
出版社:小学館
発売日:2000/10(2007/12)
ジャンル:ドラマ





「ミシン」は、俗世と離れた自身の矜持に心酔する乙女と周囲の人々を描いた表題作を含む2作品が収録された小説です。

著者の嶽本野ばらさんは京都府出身です。他の著書に、中島哲也さん監督で映画化もされた「下妻物語」や、「ロリヰタ。」といった作品があります。

「世界の終わりという名の雑貨店」と表題作の「ミシン」の2作の中編が収録されています。前者は西島秀俊さんと高橋マリ子さんが主演、濱田樹石さんが監督で映像化もされています。



あらすじ


僕はビルのオーナーの好意により京都で雑貨店を営むことになります。学生時代のアルバイトから続けていたライター業を廃業した僕に与えられた使命は何かしらのお店を営むことでした。

繁華街から離れているため立地が良いわけでもなく才覚もない僕は、苦肉の策として、昔収集して今は段ボール箱に眠っている小物やガラクタを集めて雑貨店を営むことになります。店の名前はイギリスを代表する世界的なブランド「Vivienne Westwood」のショップ「WORLDS END」を日本語訳したものにしました。

店は順風満帆とはいかないまでも、雑誌で紹介されて一時的に盛況になることもありました。ライター時代の貯金を切り崩しながらも1年間、店は続きました。

ある日、全身をVivienne Westwoodで飾った君が僕の店を訪れます。君は僕の店を気に入ってくれていたようでした。3時間も店に滞在していた君、ピンク色の紙石鹸を購入していった君、それから君は毎日のように店に顔を出すようになります。


僕はどこで間違ったのか、どうして人は本当に大切なことを喪失の後にしか気づけないのか。「世界の終わり」という雑貨店のお話__


(「世界の終わりという名の雑貨店」より)



感想

不変な物事を望みながらも刹那的、美意識への矜持を抱きつつも退廃的、社会とは乖離した独特な儚い世界観が堪能できます。

ファッションブランドを英字表記で繰り返し登場させる文体は特徴的です。服装・音楽・芸能・文学と、最新のもの、流行りに傾倒するわけではなく、時代関係なく美しくあろうとする矜持が全体的に感じられます。

美しくあれ、と昭和の少女たちのカリスマ的存在であった中原淳一さん。伊吹有喜さんの小説「彼方の友へ」でもモデルとして登場しました。そこでは、戦時という社会の中でも自身の生き方を貫く少女が描かれていました。本作でも中原淳一さんが軽く紹介されています。本作品では時代が変われども、根底にある乙女のスタイルは不変であるという主張が感じられました。

「ミシン」も印象的でしたが、「世界の終わりという名の雑貨店」の最初から最後まで寂寥感を身にまといながら、どこかへと進んでいこうとする展開は読後も深い余韻を残してくれました。



もしかすると、魂とは絵の具のような性質をしているものなのかもしれません。
僕と君は最初、同じ魂を持ってはいなかったのかもしれない。
しかし出逢った瞬間、それはパレットの中で混ざり合い、同じものになってしまう。
オレンジ色と白色を掛け合わせれば、肌色になるようなものです。
それならば他に同じものがないことも納得出来ます。
同じ色を作ろうと思っても、二つの絵の具の割合は微妙に違ってしまうもの。

(p.046)






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