小説 ~ メタル・トレーダー ~




メタル・トレーダー
著者名:徳本栄一郎(とくもと えいいちろう)
出版社:講談社(新潮社)
発売日:1999/7(2009/9)
ジャンル:金融、サスペンス





「メタル・トレーダー」は1996年の住友商事巨額損失事件をモチーフに描いた金融サスペンス作品です。

著者は佐賀県出身の徳本栄一郎さんです。ノンフィクション著書に「角栄失脚 歪められた真実」や「英国機密ファイルの昭和天皇」があります。

本作品は最初に「スクウィーズ」のタイトルで刊行され、その後、文庫版で「メタル・トレーダー」に改題されています。



あらすじ

住倉物産の非鉄金属本部に所属する上杉健二は、『ミスター・ファイブ・パーセント』の異名で世界の銅取引の5パーセント支配していました。しかし、彼は過去10年間にわたる簿外銅取引で会社に26億ドルの存在を与えたとして起訴されます。栄光からの転落です。

1996年6月のこの事件は、日本より海外での関心が高く話題となりました。それから2年が経過し、上杉は有印私文書偽造と詐欺の罪で実刑判決を受けます。

判決をもって事件は終息したかに思われました。しかし、国際通信社のグローブ通信社東京支局で働く根本誠一のもとに、ロンドン本社で勤務してきたときの同僚から怪しげな情報が寄せられたことで彼は事件を調べ始めます。

そこには、上杉健二を破滅に追い込んだ、ロンドンの国際金融街「シティ」の暗部の罠が隠されていました__



感想


実際の事件をモチーフに描かれた金融サスペンス作品です。会社への詐欺という点ではクライムサスペンス作品ともいえます。

コンプライアンスが声高々に叫ばれている今でさえ、横領のニュースをたまに目にすることがあるように、ありえないと感じるような不正取引は意外と簡単なことなのかもしれません。

おいしい話にあまりにも簡単に飛びつきすぎだと思わなくもないですが、溺れるものは藁をも掴むという格言のとおり、暗闇の沼に嵌まり込んでいく当事者の感情が伝わります。個人的にはとても好きな部類の小説です。


「ビル、お前にひとつ教えておこう。
日本人がイエスと言ったらその意味はノーだ。
パーハップス(たぶん)と言ったらイエスだな」

「連中がノーと言ったら?」

別の男が訊いた。
ブライアン・ノリスの声だ。

「そいつは日本人じゃないのさ」

(P.332)





 

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