小説 ~ 妻を帽子とまちがえた男 ~




妻を帽子とまちがえた男(つまをぼうしとまちがえたおとこ)
原題:The Man Who Mistook His Wife for a Hat
著者名:オリバー・サックス(Oliver Sacks)
訳者:高見幸郎(たかみ ゆきお)、金沢泰子(かなざわ やすこ)
出版社:早川書房
発売日:2009/7 (原題発表 1985)
ジャンル:医療





「妻を帽子とまちがえた男」は、イギリスの脳神経学者が出会った不思議な症状を抱える患者たちの世界を描いたエッセイです。

著者のオリバー・サックスさんはイギリス出身の脳神経学者です。診療のかたわら精力的に作家活動を展開していて、他の著書に「火星の人類学者」や映画化もされた「レナードの朝」等があります。

訳は高見幸郎さんと金沢泰子さんの協同翻訳です。



あらすじ

Pは地方の音楽学校で教師を務めています。彼は声楽家として著名でした。しかし、彼はあるときを境に奇妙な行動を見せるようになります。

生徒が目の前にいても生徒に気づかないのです。相手の顔が見えていないようであり、生徒が声をかけると初めてその声で誰か判別できるのです。

さらには相手がいないのに、そこに誰かいるような振る舞いを見せるようにもなります。街を歩いていると、消火栓やパーキングメーターを前にして、そこに子供がいるように、ぽんとたたくのです。

最初は周囲もユーモアの一種だと思っていました。P自身も笑っていました。しかし、最初の症状から3年ほど経過し、糖尿病になって目に不安を覚えて、ようやく何かがおかしいと感じ始めます。

眼科医は答えました。目はまったく問題ありません、しかし、脳の視覚系の部分に異常があるようだから、脳神経の専門医に行ってくださいと。

そこでサックス博士はPを診察することになります。Pは教養があり、魅力的な人物でした。精神異常は何ら認められませんでした。ただ、行動におかしなことがありました。

Pはサックス博士の顔を見ていたのですが、どこか様子がおかしく感じます。さらに、腱反射を調べるために靴を脱がせて、検査後それを履くように指示したところ、P博士は1分以上何も行動せず、さらには自分の靴がどれか、そして、自分の足がどれかわからなくなっていたのです。

極めつけは、テストを終了したと思ったP博士の行動です。彼が帽子を探し始めたところ、何と彼は妻の頭を掴まえて、持ち上げてかぶろうとしたのです__



感想


インパクト抜群のタイトルに惹かれました。人間の身体や精神がいかに脆く強靭で不思議なものかがわかります。

ノンフィクションのエッセイということで、当然ですが患者の顛末や劇的な脚本が語られるわけではないため、話としては少し淡白に感じられます。

しかし、この作品で特筆すべきなのは、患者の奇抜な行動だけではなく、その奇抜な行動とどう向き合っていくかという各々のアイデンティティと、可能性を著者がほのめかしている点だと思います。

綺麗ごとではなく、患者と向き合う著者の姿勢に好感を抱く一方で、特徴的な患者がたくさん登場しているために、本当に患者と向き合えているのだろうかと疑問を生じる瞬間もありました。24編は私には多すぎだったのかもしれません。









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