ねむり姫(ねむりひめ)
著者名:澁澤龍彦(しぶさわ たつひこ)
出版社:河出書房新社
発売日:1983(1998/3)
ジャンル:時代、ファンタジー
「ねむり姫」は平安後期の京を舞台に、異母兄妹の数奇な運命と邂逅の物語を含めた、日本の過去を舞台とした妖異譚の短編集です。
著者の澁澤龍彦さんは東京都出身の作家で、他の著書に「唐草物語」といった作品があります。マルキ・ド・サドさんの「悪徳の栄え」といった翻訳も担当されています。
本作品の文庫版には表題作の他に、「狐媚記」、「ぼろんじ」、「夢ちがえ」、「画美人」、「きらら姫」の計6編の短編作品が収録されています。
あらすじ
平安時代後期、後白河法皇の院生時代、とある中納言の娘に珠名(たまな)姫がいました。彼女は幼いながらも、その名が示すとおりの美貌の持ち主であり、貝の真珠層を思わせるような透き通る皮膚の色をしていました。美しさに目を奪われるよりも早く、その憂わしさに人々はどこか姫の将来を案じてしまうほどでした。
彼女の幼年時代は決して明るいものではありませんでした。彼女の母親は出産後1週間も経たないうちに倉皇として亡くなりました。父親が雇った乳母の手で彼女は育てられました。
彼女の母親は瀬戸内海の伊予の出身でしたが、彼女の父親が国司として伊予に赴任している間に想いをかけられ、京の土地に嫁いだのです。しかし、彼女の母親はそこで馴染むことができませんでした。
彼女の母親は一種の鬱病だったのか、また、別の噂話として、母親の死因は毒だという者もいました。珠名姫のその果敢なげな風情は毒が体内に残った影響ではないかとも言われていました。
中納言家の複雑な様子はそれだけではありません。珠名姫が乳母に育てられている屋敷には、廻毛丸(つむじ丸)という3歳年上の腹違いの兄がいたのです。
頭に3つのつむじがあるという理由で奇態な名を与えられた彼は、蒼白い顔をしている点のみ珠名姫と似ていましたが、それ以外は放蕩濫行が目に余る暴れ者でした。
一方の珠名姫というと、14歳まで部屋に閉じこもってばかりの単調な日常生活を送っていました。唯一のお気に入りの遊びが貝覆いでした。
そんな彼女を奇怪が襲います。彼女は突如として深い昏睡に落ちていったのです__
(『ねむり姫』)
感想
古典や伝記を参考にしつつ、平安や江戸といった時代で生じた男女の妖かし物語を描いた短編集です。
登場する語句や物事が時代背景に沿ったものだったり、見慣れない日本語だったりが多く、また、そういった文章の中で伏線のような描写も散見されたため、サラッと読み進める読書方法だとあまり楽しめないような気がします。古典への造詣が深かったり、じっくりと読み進めたりしたほうが楽しめる作品だと思われます。
作中で突如現れる作者のメタ視点だったり、前後にそぐわないハイカラなカタカナ語だったり、特徴ある文章に、失笑したり、微笑んだりできます。
個人的には「狐媚記」や「ぼろんじ」が初読で楽しめました。ただ2週目の「ねむり姫」に目を通したときに伏線のような部分を発見し、じっくりと読み込むことでより味わい深くなる作品ばかりなのかなと思ったため、古典に慣れる機会があれば、その後で再読したいなと思いました。
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