小説 ~ 若い芸術家の肖像 ~




若い芸術家の肖像(わかいげいじゅつかのしょうぞう)
原題:A Portrait of the Artist as a Young Man
著者名:ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)
訳者:丸谷才一(まるや さいいち)
出版社:新潮社
発売日:1994/2 (原題発表 1916)
ジャンル:ヒューマン





「若い芸術家の肖像」は、アイルランドのカトリック教の家庭で生まれた少年が自身の価値観や欲望と社会の期待やしがらみとの狭間で成長していく様子を描いた小説です。

著者のジェイムズ・ジョイスさんはアイルランド出身で、他の著書に「ダブリン市民」や「ユリシーズ」があります。

訳者の丸谷才一さんは山形県出身、翻訳家としてだけではなく小説家としても著名で、1968年に芥川賞を受賞した「年の残り」といった多くの著書があります。本作品で2010年に読売文学賞(研究・翻訳部門)を受賞しています。



あらすじ

スティーヴン・ディーダラスは、アイルランドのレンスター地方にあるカトリックの寄宿学校、クロンゴウズ・ウッド学寮の初等級に所属しています。

ディーダラスは親元を離れています。入学式の日、お城の表玄関の前で、鼻と目を赤くしたお母さんと、お小遣いをくれたお父さんと別れた様子を覚えています。お母さんは学校で乱暴な生徒と口をきくなと言っていました。お父さんはどんなことがあっても告げ口をしてはいけないと言っていました。

学校には乱暴な生徒も意地悪な生徒も成績のよい生徒も優しい生徒もいます。

ディーダラスはフットボールの時間中は、走ったって仕方ないやと思うタイプです。算数の時間にはヨークとランカスターのチームにわかれての計算時の早解き対決時に周囲からの注目を集めるタイプです。初等級の首席候補であり、みんなの賭けの対象になっています。

アイルランドの外側のことや神様のこと、政治のことを気にはすれど、まだまだ先の話だと思っています。ディーダラスは学期があって、休みがあって、次の学期があって、それが続いていく、汽車がトンネルを出たり入ったりするようなものだと考えています。休んで、礼拝堂でお祈りして、それから寝るだけであると、そんな寄宿学校での幼年時代から、ディーダラスは次第に成長していきます__



感想


主人公の幼年期から青年期までの価値観の変遷、精神的変化を描いた成長譚であり、教養小説的な作品です。

物語に劇的なドラマがなく、インパクトのある登場人物も存在せず、文体も一定ではなく、状況も把握しづらい、という印象です。つまり、読みづらく、また楽しくはない作品という感想です。

それが読解力の不足によるものか、宗教や歴史、神話、アイルランドの社会風習への理解のなさによるものかはわかりませんが、読む人を特に選ぶ作品だなと思います。

小さい単位で印象に残る文章表現もありますし、友人に芸術論を語るシーンはおもしろかったですが、全体的に馴染めない作品でした。








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