雪国(ゆきぐに)
著者名:川端康成(かわばた やすなり)
出版社:創元社(新潮社)
発売日:1937/6
ジャンル:ヒューマン、恋愛
「雪国」は下町育ち家族もちの無為徒食の生活をしている男性と、旅先での雪深い温泉町で出会った女性とのゆきずりの交流を描いた作品です。
著者の川端康成さんは大阪府出身であり、他の著書に「伊豆の踊子」や「古都」があります。著者は1968年に日本人として初のノーベル文学賞を受賞しています。
本作品は幾度かにわたり、映画化やテレビドラマ化もされています。
あらすじ
雪国への旅路で列車に乗る島村は、車中でとある男女に興味を惹かれます。病人の行男(ゆきお)と彼をいたわる葉子(ようこ)の姿です。まめまめしく行男の世話をしている葉子を列車の鏡越しから覗いていた島村は、鏡越しの情景だったこともあり、夢のからくりでも眺めているような気分で過ごしていました。島村が目的地に到着したとき、その二人も同じ駅で降りていました。
島村は東京の下町生まれです。文筆家の端くれをしつつ、無為徒食の生活を送りながら、たまに東京に家族を残して旅に出ています。
十二月の初め、冬の雪国に初めて降り立つ島村、彼はその土地の人のいでたちに驚きながらも、宿の番頭と会話を交わします。旅の目的の人となる、お師匠さんとこの娘と呼ぶ女性のことを島村は番頭に尋ねます。すると、番頭から駅に人を迎えにいっていたと聞かされます。どうやら、島村が降りた駅には彼女がいたようであり、さらに、鏡の中で葉子のそばにいた行男こそが、島村が会いに来た女性の家にいる息子だったようです。その偶然に対して、心の中に何かが通り過ぎたように感じた島村でしたが、それを不思議に思うことはありませんでした。
島村は半年以上前、新緑の登山季節に入ったころにも同じ場所を訪ねていました。そのとき出会ったのが駒子(こまこ)でした。三味線と踊りの師匠の家にいる19歳の女性で、みなから重宝がられていました。島村は彼女に対して、不思議なくらい清潔であったと印象を持ちます。
お酌し身の上話をしているうちに、島村は駒子のことが気になりだします。あくる日、島村は女性を世話してくれないかと駒子に頼みます。彼女はどうして私に頼むかと尋ねると、彼は友達だからと答えます。彼女はその申し出を断ります。そして、その夜、酔った状態で彼女は彼のもとを訪ねます。島村は翌日、東京に帰りました。
島村は久しぶりに駒子と再会します。彼女は芸者となっていました。あんなことがあったにもかかわらず、手紙も出さず、会いにも来ず、約束も果たせず、開口一番謝るべき立場の島村でしたが、当時の思い出となつかしさに二人はまたひと時を共に過ごします。
ある日、島村が按摩さんに施術を頼むと、思わず駒子の身の上話を聞くこととなります。行男が東京で長患いしたために、駒子が夏に芸者に出てまで病院の金を送っていたと聞かされます。駒子は行男のいいなずけだという噂もあるようです。
島村は駒子が行男のいいなづけだとして、葉子が新しい行男の恋人だとして、行男がやがて死に行くのであれば徒労である、と島村の頭には浮かんできます__
感想
近現代日本の文学界の第一人者であり、ノーベル文学賞を日本人で初めて受賞した著者の長編小説です。冒頭の一文がとても有名な作品です。
物語の中で明確な筋、大きな起承転結があるわけではないため、決して読み易い部類の作品ではありません。明確な筋がないため、駒子が善い人にも悪い人にも、いい女性にも捉えることができます。明確でないからこそ、その登場人物のことを深く考え、結果的に印象深く記憶に残ります。
トンネルや鏡をはじめとして、東京と雪国の境界線を強く意識させようとする島村の言い訳がましい言動には少し辟易してしまいますが、登場人物間の会話劇、距離感、心情変化が存分に楽しめる作品です。しかし、駒子が島村にどうしてそんなにも惹かれたのか。野暮ったいと思いつつも、その理由が明確でない部分がモヤモヤします。
離れていてはとらえ難いものも、
こうしてみると忽ちその親しみが還って来る
(P.101)
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