小説 ~ テロリストに薔薇を ~




テロリストに薔薇を(てろりすとにばらを)
原題:Touch the Devil
著者名:ジャック・ヒギンズ(Jack Higgins)
訳者:菊池光(きくち みつ)
出版社:早川書房
発売日:1991/5 (原題発表 1985/2)
ジャンル:サスペンス





「テロリストに薔薇を」は、欧州で暗躍する国際的テロリストと、地中海の孤島の牢獄で服役している元IRAの諜報戦を描いたサスペンス小説です。

著者のジャック・ヒギンズさんはイギリス出身で、第二次世界大戦とアイルランド紛争を題材とした作品で有名です。「鷲は舞い降りた」といった代表作を含め、名義もハリー・パターソン(本作品発表時の名義)やマーティン・ファロン等、複数あります。

訳者の菊池光さんは東京都出身で、本作品の他に、「鷲は舞い降りた」や、ジョン・ル・カレさんの「テインカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」等、数多くの英米文学の翻訳を担当されています。



あらすじ

1966年ベトナム、一人の女性、アン-マリィ・オーダンが戦場カメラマンとして窮地に立たされてます。短く刈った黒い髪、オリーヴ色の肌の小柄な外見に、2台のニコンのカメラが目立っています。

彼女の祖父はフランスで指折りの大富豪です。父はアルジェリアで戦死した歩兵大佐で、母は父の後を追うように自動車事故で亡くなっています。“気の毒な金持ちの小娘”という周囲のレッテルから彼女を救ったのがカメラの存在でした。

彼女のカメラは道楽の範疇に留まらず、祖父の政治力もあって、その評価はうなぎのぼりとなり、雑誌<タイム>の表紙になるほど著名になりました。

水田の一隅で燃えきったヘリの残骸、そばにある数人の死体、そこで必死に手を振るアメリカ軍の制服を着た男、そこに近づく救急ヘリを待ち受けていたのは罠であり、敵襲で多大な被害を被った結果、マリィは一人、車外に放り出されてしまいます。

周囲に武装した敵がいる絶体絶命の状態、彼女ができる唯一のことはカメラを構えることでした。

しかし、彼女の窮地を一人の男性が救います。その男性は、手にしていたM16ライフルを発射しながら、彼女の手をとり、その場を脱出します。

彼は空挺レンジャー部隊に所属するマーティン・ブロスナン軍曹と名乗ります。パトロール中にマリィと同じように騙され、仲間を失い、救援を待つ身です。

マーティンはアイルランド系で裕福な家庭で育ち、大学では英文学を専攻していました。庭師の息子がベトナム戦争で戦死した話を聞き、思うところがあって金持ちの裕福な坊やが陸軍の最精鋭部隊の兵隊となったようです。

二人は助かった後の話をして、約束を交わします。しばらくして救助の航空機が現れます。二人の最初の出会いでした__



1979年パリ、数多くの事件への関与が疑われる元IRAのテロリストであるフランク・バリィが新たなテロを計画していることを、工作員ジャック・コーダーからの情報で知ったイギリス国防情報部第4課の責任者チャールズ・ファーガスン准将、彼はバリィを阻止するために、元IRAのマーティン・ブロスナンを起用しようと計画します。

しかし、そこにはいくつかの問題がありました。マーティンがイギリス情報部からの任務を受けてくれるか。さらに、マーティンは過去の罪により、フランスの孤島の刑務所に服役しているという問題があります。

ファーガズンはマーティンを動かすために、ダブリン大学で教鞭を取っているIRAの伝説、リーアム・デヴリンに説得を依頼しようとします__



感想


欧州舞台の諜報活動を描いたサスペンス作品です。明確な勧善懲悪が描かれていないことが本作品の魅力であり、登場人物の複雑な感情と矜持が印象に残ります。邦題のタイトルも秀逸だと感じました。

テロ対策の攻防という本題の前に、白羽の矢を立てられる主人公が陸の孤島に服役中ということで、そこで一波乱が発生します。個人的にはそこでのサスペンスのほうがスリルを味わえました。

本作品の登場人物は「鷲は舞い降りた」でも登場する人物がいるようであり著者のファンであれば一層楽しむことができるようです。ただし、著者初見の私でも問題なく楽しめました。

どこかホロ苦いのは、イギリス諜報小説の特徴なのでしょうか。ど直球のハリウッド映画で爽快感を味わうか、少し皮肉っぽい深い情の余韻に浸るか、適宜選んで楽しめればいいと思います。








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