小説 ~ 少年たちの終わらない夜 ~




少年たちの終わらない夜(しょうねんたちのおわらないよる)
著者名:鷺沢萠(さぎさわ めぐむ)
出版社:河出書房新社
発売日:1989/9(1993/7)
ジャンル:青春





「少年たちの終わらない夜」は十代後半の青年たちの刹那的な快楽や未来への焦燥感で埋められたモラトリアムの季節を描いた短編集です。

著者の鷺沢萠さんは東京都出身で、他の著書に芥川賞の候補となった「帰れぬ人びと」や「葉桜の日」があります。映画「さよならドビュッシー」の監督である利重剛さんと結婚されたり(後に離婚)、「シリウスの道」の藤原伊織さんと交流が頻繁にあったり、麻雀が好きだったりとのことです。



あらすじ


川野真規(まさき)はバスケ部に所属し、1週間後に引退試合を控えています。試合が終わって夏になれば真規は18歳になります。

真規には笠井陽子という一つ歳下の彼女がいます。去年の秋に渋谷のパーティー会場で初めて知り合いました。真規のことを陽子に紹介したのはミホという女性でした。真規はミホと1度、肌を重ねたことがあります。

真規は滝井という後輩から相談を受けています。滝井が開催するパーティと同じ日にヤマシタという奴が別のパーティを同じビルの同じ時間帯に開くため、女性が流れてしまっておもしろくないという相談でした。真規は仲の良い坂本が以前にヤマシタのことを気に食わないと言っていたことを思い出します。


陽子との待ち合わせに遅刻する真規、しかし、真規が約束の時間どおりが来たためしがないため、陽子は特段怒りもせずに真規を迎え入れます。陽子は真規のことを川野さん、と苗字にさんづけで呼びます。

付き合って半年経ちますが、真規はまだ陽子に対して何もしていません。真規と付き合いの長い仲間たちはそれを異常なことだと言います。陽子は他の女の子と比較すると少し変わっていて、それが真規にはおもしろく感じます。

陽子は真規に来年の大学受験のことを尋ねます。真規は無試験で大学に進学できるから大丈夫だと答えます。じゃあ三年間遊んでいられるんだと言う陽子に、真規は一言、うん、と返します。

すると陽子から、“そうやって、ずっとこれからもどうにかなると思ってるんでしょ”と指摘されます。真規は最初、陽子の言葉の意味がわからなくて顔をしかめた後、しばらく経ってから深く頷きました。陽子はその真規の様子に溜息をついてから、少し笑います__


「少年たちの終わらない夜」



感想


約30年前に発表された青春モラトリアムを描いた小説です。大人になる前の焦燥感や刹那的な快楽、一時の会遇は時代を感じさせませんが、固有名詞や人との繋がり方には時代を感じてしまう作品です。

希薄な繋がりやパリピがメインキャラクターという点では、映画「チワワちゃん」と近い印象を抱きました。「チワワちゃん」と異なる点は時代と、本作品の主人公が男性であることです。本作品の主人公たちは少し投げやりな部分があり、結局は、今という刹那的な部分と曖昧な未来に漠然とした期待を抱き続けます。一方で、女性陣は俯瞰と焦燥感が混ざったような状態であり、大人に近いようでもあり、夢見る少女でいつづけるようでもあります。女性の登場人物に関しては両作品に共通している部分も多くあり、視点の異なる両作品のそれぞれの描き方がおもしろいと感じました。

個人的には「誰かアイダを探して」が群を抜いて印象が良かったです。展開、テーマ、二人の関係性と読みやすく、過去の一場面と、未来への期待と、今やりたいこと、切ない読後感を味わえました。







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