小説 ~ ミルクウィード 天使の羽根のように ~




ミルクウィード 天使の羽根のように
原題:Milkweed
著者名:ジェリー・スピネッリ(Jerry Spinelli)
訳者:千葉茂樹(ちば しげき)
出版社:理論社
発売日:2004/9 (原題発表 2003/1)
ジャンル:ヒューマン、戦争





「ミルクウィード 天使の羽根のように」は、第二次世界大戦中の中央ヨーロッパを舞台に、高い壁と青い空の下で生き抜く純粋な孤児の過酷な物語を描いた作品です。

著者のジェリー・スピネッリさんはアメリカ出身で、他の著書に1991年にニューベリー賞を受賞した「クレージー・マギーの伝説」や、「スター☆ガール」等があります。

訳者の千葉茂樹さんは北海道出身で、スピネッリさんの「スター☆ガール」や「ひねり屋」の訳も担当されています。



あらすじ

“こそ泥!”

片腕にパンを抱えて逃げる少年がいます。少年はただひたすらに走ります。

ある夏の日、少年は赤毛の少年のウーリーに捕まります。少年のひったくりの犠牲となった女性は、ウーリーも目をつけていた獲物でした。ウーリーは少年のシャツからパンを引っぱり出すと、半分にわけひとつを少年に渡し、ひとつを自分の口に運びました。

ウーリーは少年に伝えます、“じきに、ばばあどものかわりにジャックブーツが追いかけてくるようになる”と。しかし、少年はジャックブーツが何なのかわかりません。

ウーリーは少年に名を伝えます。ウーリーは少年に名を尋ねます。少年は答えます、“コソドロ。だと思う”、少年は自分の名前がわかりません。


ウーリーは少年を仲間のところに連れて行きます。そこは馬小屋でした。少年はウーリーの仲間たちから質問されたり、からかわれたりします。“おまえ、ユダヤ人か?”と一人が尋ねます。“わかんない”と少年は答えます。“いくつなんだ?”と別の仲間が尋ねます。“わかんない”と少年は答えます。

また別の仲間が少年に近づき、少年が首にぶらさげていた石や、少年の目や肌を観察します。そして、彼は言います、“こいつはジプシーだ”と。少年にとってはそれは懐かしい言葉でした。部屋か馬車か、とにかくどこかで聞いたことがあるような言葉でした。少年はうなづきました。

少年はウーリーや仲間たちと行動を共にするようになります。これまで知らなかったことを知るようになります。幸せや天使を追い求めるようになります。少年はミーシャという名前を与えられます。

少年は新しい出会いにも恵まれます。ユダヤ人の少女のヤーニナや、孤児院にいるコルチャック先生です。少年は青い空の下で暮らします。たまにジャックブーツの砲撃が降ってきたり、周囲を壁で囲まれながらも、花の綿毛のように世界に飛び出していこうとします__



感想


第二次世界大戦下で自身の名すら知らない孤児の成長物語です。

自身の名前すらわからない主人公が、周囲の人たちの影響を受け、知識や経験を身につけ、時に幸せを感じ、時に理不尽な状況の中にいながら、自身が何者なのか、何がしたいのかを考え、走り続けます。過酷な環境下でのその少年の存在がこの作品の魅力です。

第二次世界大戦の過酷な環境に放り込まれた子供という面では、「悪童日記」の双子と本作品の主人公の比較に感慨深いものがあります。教育と両親の愛を受け育った記憶を持ちながら、疎開され社会の理不尽にあい、その一部となるように成長する双子、一方で、両親の記憶もなく、教育もまったく受けていない状態で、社会の理不尽に耐え受容しながらも、自身の生き方を貫き成長する本作品の主人公、どちらも異なるアプローチから、生きていくうえでの希望と絶望を訴えかけてきます。

終盤の急展開だけは無理やりまとめた感が残りましたが、序盤からとても惹きこまれる、幅広い年齢の人に読んでもらいたい作品です。













コメント