小説 ~ 顔のないポートレート ~




顔のないポートレート
原題:Blind Side
著者名:ウィリアム・ベイヤー(William Bayer)
訳者:高橋恭美子(たかはし くみこ)
出版社:扶桑社
発売日:1992/6 (原題発表 1989)
ジャンル:サスペンス





「顔のないポートレート」は、過去のトラウマから顔が撮れなくなった報道カメラマンが、女優の卵の女性と出会い、その女性に関する事件の渦中に巻き込まれていくサスペンス小説です。

著者のウィリアム・ベイヤーさんはアメリカ出身で、他の著書に1982年にエドガー賞の長編賞を受賞した「キラーバード、急襲」や、「すげ替えられた首」等があります。

訳者の高橋恭美子さんはアガサ・クリスティーさんの「蒼ざめた馬(ハヤカワ文庫)」やロバート・クレイスさんの「約束(創元推理文庫)」等、数多くの作品の訳を担当されています。



あらすじ

七月の蒸し暑い日、真夜中のマンハッタン、寝付けなかったカメラマンのジェフリー・バーネットは、写真を撮りに外へと出かけます。

ジェフリーは40歳の独身です。ナッソー通りのスタジオに住んでいます。彼は過去にフォトジャーナリストとして、ベトナム戦争中に撮影した「ピエタ」という作品で世界中から賞賛を浴びた経験もあります。現在は報道写真を撮っておらず、また、人の顔を撮影しようとすると身体が震えだし、ポートレートが撮れません。

午前2時、歩き続けたジェフリーはようやく気に入る被写体に遭遇しました。煉瓦づくりの壁に無名の環境芸術家の影絵、街灯の灯りに浮かびあがる白いキャデラック、彼の頭の中にはすでに構図も出来上がっていました。撮影の準備を整え、ファインダーを覗いていると、突然、若い女性の顔が飛び込んできました。

黒いドレス、明るい黄褐色の長い巻き髪、猫のような目、モデルのように若々しく、官能的な整った顔立ち、それがキンバリー・イェイツ(キム)との出会いでした。キムには魅力と情熱がありました。

ポートレートが取れなかったジェフリーでしたが、キムに対しては身体が震えることなくシャッターをきることができました。そんな機会が来るとは予想していなかった彼は、興奮のあまり、その夜、ニューメキシコに住んでいる親友のフランク・コーデロに電話をかけました。フランクは元特殊部隊の一員で、今ではプロの写真家になっています。マイという名前のベトナム人の妻がいます。マイはかつてジェフリーが愛していた人でもあります。

キムにはダウンタウンの一部の地域で名の通った売れっ子モデルのルームメイトがいます。シェリル・デヴェルーが本名ですが、シャドーという愛称で呼ばれています。ある日の午後、ポートレートを撮ることを口実にキムはシャドーを連れてきました。

シャドーは美人で、カメラマンの扱いにも慣れていて、写真ばえのするスタイルを備えていました。しかし、身体が震えることこそありませんでしたが、ジェフリーはシャドーの顔を撮ることができませんでした。かろうじて首から下だけは撮ることができたため、何とかその場を切り抜けたのですが、キムにはお見通しだったようです。

ジェフリーにとってキムは日に日に特別な存在になっていきます。それは夢のような愛と快楽の日々でした。しかし、ある日突然、彼女は彼の前から姿を消し、代わりに刑事が彼の前に現れます__



感想


かつては名をはせたフォトグラファーでありながら、過去のトラウマからポートレートが撮影できなくなり、街の風景写真を撮りながら日々を過ごすプロのカメラマンが主人公のサスペンス作品です。

情熱から逃避した男性の前に快活で魅力的な女性が現れ、生きる魅力を見出していく、ここまではボーイ・ミーツ・ガールやマニック・ピクシー・ドリームガールの類のラブロマンス作品です。

しかし、そんな都合のいい話なんてあるわけはなく、とある事件が発生し、男性は生死を賭けたコンゲームと心身を捧げる女性との信用勝負に挑むことになります。

後半のとある登場人物の行動力を見ていると、最初から主人公なんて不要だったのではないかと、どこかご都合主義を感じたのは残念でしたが、サスペンス作品の起承転結の盛り上がりに関しては充分に楽しめました。

主人公がフォトグラファーということで、ローラ・ギルピンさんといった写真家の名前やランチョス・デ・タオスの教会といった写真がたくさん撮られた場所が文中に登場して、どんな作品なのかと興味を抱かせるのも良かったです。











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