悪童日記(あくどうにっき)
原題:A nagy füzet
配給:Budapest Film(アルバトロス・フィルム)
監督:ヤーノシュ・サース(Szász János)
脚本:ヤーノシュ・サース、アンドラーシュ・セケール(Szekér András)
出演:アンドラーシュ・ジェーマント(Gyémánt András)、ラースロー・ジェーマント(Gyémánt László)
公開日: 2013/9(2014/10)
ジャンル:ヒューマン、戦争
「悪童日記」は第二次世界大戦下で家族と離別した双子が、疎開先で意地悪な祖母や盗人の隣人、暴力を振るう身勝手な大人たちとともに生き抜く様子を描いた戦争ヒューマン映画です。
監督はハンガリー出身のヤーノシュ・サースさんです。他の作品に「Opium: Diary of a Madwoman(Ópium: Egy elmebeteg nő naplója)」等があります。
脚本は監督のヤーノシュ・サースさんと、こちらもハンガリー出身のアンドラーシュ・セケールさんです。他の作品に「No Man's Island(Senki szigete)」があります。
主人公の双子役を本作品がデビュー作となるアンドラーシュ・ジェーマントさんとラースロー・ジェーマントさんが演じています。
本作品の原作はハンガリー出身のアゴタ・クリストフさんが1986年に発表した「悪童日記(Le Grand Cahier)」です。
本作品は2013年にアカデミー賞外国語映画賞の最終候補作品に選ばれています。
あらすじ
双子(アンドラーシュ・ジェーマント/ラースロー・ジェーマント)がベッドで寝ています。家族の安息のひと時です。久しぶりに家に帰ってくる父親(ウルリッヒ・マテス)、迎える母親(ジョンジュヴェール・ボグナール)、抱擁を交わす二人に寄ってくる双子、父親から双子にマフラーがプレゼントされ、家族4人がソファーで体を寄せ合う幸せなひと時です。
夜、父親と母親の会話が聞こえてきます。かわいそうだという声、二人を引き離すという声、生きていくためには仕方ないという声が聞こえてきます。
双子の寝室に入る両親、父親は戦争のためにまたしばらく離れてしまうということです。父親から双子にノートが渡されます。この日記にノートを書きなさい、戦争で離れてもいつも一緒だと、父親から双子への言葉です。1944年8月14日、双子ははっきりと夜の両親の声を聞いていました。双子はお互いが必要で、絶対に離れないと考えていました。
汽車で母親と双子の三人、彼らは大きな町から田舎町へと移動中です。アヒルや鶏が庭で闊歩している家、そこは双子の祖母の家です。
20年ぶりに祖母( ピロシュカ・モルナール)の家を訪ねる母親、何年も来なかったのに今になって思い出したのかと祖母は愚痴をこぼします。私のことはいいから双子を疎開したいと、母親は祖母にお願いします。
戦争が終わるまでここにいてと、生き抜いてと、勉強だけは止めては駄目だと、それが双子に対しての母親の教えでした。最後に手紙を書くと言い残してその場を立ち去ろうとする母親、双子は母親を引きとめようと追いかけますが、最後には意を決して双子はその場に残ります。
祖母の家の前に立ちすくむ双子、祖母は双子を家の中に招き入れようとはしませんでした。双子はその夜、真っ暗な庭で眠ります。
祖母は双子のことを、メス犬の子供と呼びます。祖母の家は町の外れにあります。来訪者は郵便配達くらいです。目と耳が不自由な女性が隣人にいます。祖母は祖父を毒殺したという噂があるため、世間から嫌われ魔女と呼ばれています。
双子は自主的に薪割りを始めます。祖母が双子に働く気になったのかと問いかけます。働くのは嫌いだ、でも目の前で働かれるのはもっと嫌だと双子は答えます。
その答えに、同情しているのかい?と尋ねる祖母、双子は、違うよ、恥ずかしくなった、と答えます。
祖母から食事をやる、と双子は家に迎えられます。祖母にときに頭をはたかれながらも芋のスープで食事をとります。
双子は祖母から仕事を与えられました。母親との約束である勉強をするということも、父親との約束である日記をつけるということも欠かしません。
聖書も読み、十戒も暗記しました。双子が日記を書くときの決まりはひとつです、それは真実を書くということです。
ある日、祖母の家の近くに軍隊がやってきます。双子は離れた場所からその様子を覗いています。その軍隊の長はドイツ人の将校(ザビン・タンブレア)であり、収容所の司令官のようです。週末だけ、そこに住むようです。
祖母の家の川の向こうは別の国です。母親と離れて1週間が経過しましたが、未だに手紙は届きません__
感想
第二次世界大戦末期に大人から見放されつつある双子の壮絶な人生物語です。
幼少から仕事に従事しながら、離れ離れとなってしまった父親や母親との約束を律儀に守り続ける双子、それだけ聞けば、邦題の悪童とは似つかわしくない真面目な子供です。しかし、彼らを守る者がいなくなった世界で、彼らがとれる選択肢は、肉体的な痛みや精神的な痛み、そして別れの痛みに慣れていくことであり、そして彼らはどこか歪んで成長していきます。
この作品の印象的な点は、常に双子の周囲の人たちが厳しいわけではないということです。ときには周囲の人たちの優しさや、周囲の人との微笑ましいやり取りが確認できます。しかし、社会や人と距離を置かれた彼らは、彼らの中のルールが行動の指針となっているため、ときに異常な行動を示します。それは異常なことなのですが、彼らが放り出された環境を考慮すると、それが自然な成り行きだったのかもしれないと思えること、社会や人の不条理を淡々と描く様子はアゴタ・クリストフさんの作品らしく、映像でもその雰囲気は充分味わえると思います。
双子も良かったのですが、祖母の印象が特に大きかったです。絶食宣言からのチキンのシーンは反則だなと思いました。
ラストの何とも複雑な思いを引き起こすシーンも好きです。双子はお互いに必要で、絶対に離れないと。
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