小説 ~ 暗闇の終わり ~




暗闇の終わり(くらやみのおわり)
原題:The Trapdoor
著者名:キース・ピータースン(Keith Peterson)
訳者:芹澤恵(せりざわ めぐみ)
出版社:東京創元社
発売日:1990/10 (原題発表 1988)
ジャンル:サスペンス





「暗闇の終わり」は、アメリカ、ニューヨークの準郊外で発生したティーン・エイジャーの連続自殺事件を、過去に一人娘を自殺で喪失した新聞記者が取材し、事件の真相に迫っていく様子を描いたサスペンス小説です。

こちらは著者の「ジョン・ウェルズ・シリーズ」第一弾の作品です。本作品はアメリカ探偵作家クラブ(MWA)のペイパー・バック部門で受賞候補となった作品です(※日本では2018年に、湊かなえ さんの「贖罪」が候補となったニュースで話題となった賞です)。

著者のキース・ピータースンさんは本作品がデビュー作品ですが、実際は複数の名義を持つ作家であり、「切り裂き魔の森」のマーガレット・トレイシーさんや、「秘密の友人」のアンドリュー・クラヴァン等、有名な作品がたくさんあります。

訳者の芹澤恵さんは東京都出身で、日本推理作家協会の会員であり、本作品の他に、ゲーリー・F.ヴァルコアさんの「スコッツヴィルの殺人」の翻訳等も担当されています。



あらすじ

アメリカ、『ニューヨーク・スター』の社会部の一室、記者のウェルズは気の合う二人の仲間との談笑を楽しんでいました。

ウェルズは45歳の一介の記者ですが、その実力は折り紙つきであり、新聞の一面をさらう記事もたくさん書いています。現在は独身です。コンピュータの端末を使用せず、タイプライターを使用するというこだわりがあります。

談笑の相手はマッケイとランシングです。

マッケイは小さな赤子を養ういい父親です。アメリカ文学か何かで学位を取得していて、スタッフ内でも詩人であり、読者を泣かせる記事も得意です。

ランシングは大学でジャーナリズムを履修し、専属記者になろうと非常勤の通信員として記事を追いかけたのが一年半程前です。ウェルズとのある出来事から、現在ではスターの専属記者になりました。美人です。

三人はウェルズが追いかけて一面をさらったデラクロス裁判の進展に関して話していました。そこに割って入ってきたのがケンブリッジです。彼は32歳で編集長を担い、“身近な”記事こそ読者が求めるものだと考えています。美人なランシングや扱いやすいマッケイは好きですが、ウェルズとはお互いにウマがあいません。

そんなケンブリッジがウェルズに命じたのは、片田舎のグラント郡で最近発生した事件の取材でした。グラント郡ではこの6週間で、何の接点もないティーン・エイジャーが3人、相次いで自殺していたのです。

その話を聞いてランシングとマッケイは息を呑みます。なぜなら、ウェルズにはかつて一人娘がいて、彼女は15歳のときに自殺していたためです。

しかし、ウェルズはその仕事を引き受けます、過去の記憶を思い出しながら__



感想


組織に属しながらも上司にへつらうことなく、矜持と経験を活かして孤高に自身の道を突き進むハードボイルドな新聞記者の男性が主人公の作品です。

上司への皮肉や同僚との軽快なやり取り、取材で見せる冷静な応対と時折みせる情緒ある人間くささ、海外の小説ですが読みやすかったです。

また、1988年発表の時代を感じる作品ですが、上記の主人公の魅力と、ティーン・エイジャーの“生きる”ことに対する葛藤は、時代関係なく受け入れやすかったです。

ミステリーの部分はそこまで突出する印象はありませんが、“親父さん”や“そんな眼でこっちを見るな”のやり取りや、“十時になるのを待って、わたしはケンブリッジを殺しに出かけた(P.129)”の台詞等、楽しめる作品でした。



話しながら彼女は、
テーブルのうえに置いた娘の写真のうちの一枚に手を伸ばした。

そして写真の娘の髪の毛に触れた。

そうやって髪の乱れを整えてやっているかのように。


(P.43)





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