小説 ~ 独白するユニバーサル横メルカトル ~




独白するユニバーサル横メルカトル(どくはくするゆにばーさるよこめるかとる)
著者名:平山夢明(ひらやま ゆめあき)
出版社:光文社
発売日:2006/8(2009/1)
ジャンル:ホラー、サスペンス、ヒューマン





「独白するユニバーサル横メルカトル」はホラーサスペンスで構成される短編集です。意思を持った地図が二世代にわたる親子の狂気を語る表題作を含んだ、残酷な境遇に身をおく人々や醜悪な描写が描かれています。

著者の平山夢明さんは神奈川県出身の作家です。他の著書に、2011年に大藪春彦賞を受賞し、2019年7月に蜷川実花さん監督、藤原竜也さん主演で映画化された「DINER ダイナー」等があります。

本作品には表題作の他に、「C10H14N2(ニコチン)と少年」、「Ωの聖餐」、「無垢の祈り」、「オペラントの肖像」、「卵男(エッグマン)」、「すまじき熱帯」、「怪物のような顔(フェース)の女と溶けた時計のような頭(おつむ)の男」の計8編の短編作品が収録されていて、本作品は2007年度の「このミステリーがすごい!」で国内部門一位を獲得しています(※ミステリーというジャンルかと問われると違和感を覚えますが)。



あらすじ

町の外れに住んでいる たろう には、社長のおとうさん、いつもニコニコ微笑んでいるおかあさん、もうすぐ2歳になる弟がいます。たろうは大きな声で挨拶ができ、パン屋のおじさんやおまわりさんといった町の人に好かれ、たろうも町の人が好きでした。

たろうは学校でもよく勉強して、よく遊ぶ子供でした。しかし、ある日、校庭でボール遊びをしていると、いきなり知らない少年に突き飛ばされるという事件が起きました。

邪魔なんだよと、びっくりしているたろうを睨みつける少年はそのままたろうに殴りかかろうとしていました。たろうは隙をついてその場から逃げます。

帰り道、いつも一緒に帰る友達にその少年のことを尋ねると、その少年を“市長のおめかけさんの子らしいよ”と言われました。“おめかけ”という言葉の意味がわからなかったたろうでしたが、わかったふりをしました。

帰宅して夕食中、おとうさんは給料が一千万円程の人間を首にしたとか、女は無知なほうが価値があるとかといった会話をおかあさんと交わしています。

たろうは学校であった理不尽なことを話そうとしました。しかし、何故か口から出た言葉は、首になった人はこれからどうするのか、といった質問でした。

目が怖くなるおとうさん、首になる奴、嫌われる奴にはそれぞれ相応しい理由があり、そいつらは自らでそれを背負い込んでいるのだと、たろうに回答します。たろうはそれ以上会話を続けず、“ごちそうさま”と小さく呟き食堂から出ます。たろうに変なテレビ番組を見せているのではないかとおかあさんに尋ねるおとうさんの声が聞こえます。



次の日もたろうは少年にいじめられました。少年は皆の前で宣言しました。これからずっとたろうを泣かし続けると、たろうと仲良くしている奴も同じく泣かすと。たろうはその日、一人で帰りました。体が痛くて、心がくやしくて、二度ほど町の人に挨拶をするのを忘れました。

気がつくとたろうは家の反対側にある湖の畔に立っていました。町の子供たちが近づくことを禁止されている場所です。数年前に二人の子供の腐り果てた屍体が発見された場所でした。犯人は見つかっていません。子供たちは死に損でしたが、犠牲者は普通の家の子供だったため、大した騒ぎにはなりませんでした。

たろうはそこで、岸のすぐ脇の粗末のテントにいた汚らしい人と出会います__


(『C10H14N2(ニコチン)と少年』)



感想


不条理な社会や不合理なディストピア、不可思議な世界の不道徳な人たちを描いた短編集でした。

「このミス」ですが、ミステリーというよりはホラー、そしてホラーと言っても恐怖感をあおるというよりは嫌悪感を押し付けてくる、という感想です。

背景や情景や情緒、単純なものから残酷な内容まで同じ調子で描いているように思います。そして、話の展開にどうしようもない哀愁や虚無感を感じます。悪夢から目覚めたことで現実が大切に思えるような、そんな劇薬みたいな小説だと思います。

あえてどうしようもなく困難な境遇を選んだ登場人物の情緒と顛末を味わえる「オペラントの肖像」が特に印象に残っています。






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