小説 ~ ある微笑 ~




ある微笑(あるびしょう)
原題:Un certain sourire(A Certain Smile)
著者名:フランソワーズ・サガン(Françoise Sagan)
訳者:朝吹登水子(あさぶき とみこ)
出版社:新潮社
発売日:1956(1958/5)
ジャンル:恋愛





「ある微笑」は恋人のいる女子大生が、恋人の叔父にあたる既婚男性に出会い、彼に強く惹かれたことから生じる一時の恋愛模様を描いた小説です。

著者のフランソワーズ・サガンさんはフランス出身の作家であり、「悲しみよこんにちは」をはじめとする数多くの著書があります。また、小説以外にも映画の脚本を手がけています。

訳者の朝吹登水子さんは東京都出身のフランス文学者であり、多数のサガン作品の翻訳を担当しています。2000年にはフランス政府より、レジオンドヌール勲章シュヴァリエを叙勲しています。



あらすじ


ソルボンヌ大学で法律を学ぶ学生、ドミニック、彼女は恋人であるベルトランとサン・ジャック通りにあるカフェで春の午後のひと時を過ごしていました。

ドミニックがベルトランと出会ったのは昨年の夏休みの前でした。1週間の不安定な関係を続けた後、彼女が夏休みに両親のもとに帰省する前に、彼から告白しました。

そうして、イヨンヌ河の河畔にある両親のいる退屈な土地にいる夏中、ドミニックはベルトランを心の中に思い浮かべ、そして、手紙によってお互いの情熱を確かめ合っていました。

今、ドミニックとベルトランはお互いに向かい合っています。しかし、彼女は内心少し退屈していました。決して彼のことを嫌いになっているわけではありません。一緒に行動していて、感動したり、感謝したりすることもあります。ただ、彼女はすべてに無関心であり、人生に倦怠していました。


そんな折、ベルトランが旅行家の叔父に会いに行かなければならないということで、ドミニックも同行することになります。彼は叔父のことをあまり好ましく思っていないようです。

待ち合わせ場所のカフェのテラスには、すでにベルトランの叔父が待っていました。ベルトランはドミニックを友人であると紹介し、彼女にも叔父のリュックを紹介しました。

ドミニックはリュックのことを、なかなか悪くない、むしろ、少しの会話を経て、気に入った、友達にしなくてはならない、と思いました。

そして、リュックはベルトランとドミニックを翌々日のランチに招待します。リュックの妻が待つリュックの家で。



ドミニックの日常は、起きて、教室へ行って、ベルトランと会って、一緒にランチをして、大学の図書館に行ったり、映画を見に行ったり、勉強したり、友達と過ごしたりといったものでした。それはリュックの昼食までの二日間も変わりません。退屈な二日間でした。

昼食に誘われた金曜日、ドミニックは昼食の前に友達のカテリーヌの家で三十分程過ごしました。カテリーヌは陽気で専横で、いつも誰かに恋しているようなタイプでした。友人は語り手、自身は聞き手となり交わされた恋物語はドミニックを憂鬱にさせました。

そして、リュックの家にドミニックが到着すると、先に来ていたベルトランがリュックの妻のフランソワーズを彼女に紹介してきました。

フランソワーズは金髪で背が高くて美しい女性でした。決して挑戦的な美しさというわけではなく、多数の男が側に置いておきたい美しさを兼ね備えていると思う女性でした。さらに、彼女はとても親切でした。

その後、リュックが部屋に入ってきました。ドミニックは彼を見て、彼がとても美しい男だと感じました。ベルトランより何百倍も親しみを持たせる顔で、何百倍か欲望をそそる顔でした。

ベルトランとフランソワーズが会話しています。リュックはフランソワーズを愛情深く眺めていました。ドミニックはリュックを眺めていました。彼女は苦くて、待ち遠しい幸福感に満たされようとしていました__



感想


どこか達観し老成した孤独な大学生の少女、彼女の恋人の叔父となる中年男性との不道徳な恋愛を描いた作品です。

人生に倦怠している彼女にとっては他人も自身も何ら情熱を注ぐものではありませんでした。ただ唯一、恋人の叔父と自身との関係のみが彼女の興味を惹くものでした。

劇的なイベントが発生するわけではなく、ストーリー上の起伏が少ない作品です。しかし、登場人物の繊細な感情の起伏が伝わってくる文章が作品を退屈にさせませんでした。

いかに感情や感覚を表現することが困難で素敵なことなのかを発見させてくれる作品です。感情を表現するのが下手とされてしまうような人は、きっと情緒が乏しいわけではなく、感受性が豊か過ぎ、言葉との乖離が大きいがために表現しきれないだけなのだろうと、この本を読んでいると、そう思えてきます。




でも何故あなたは私を愛してないの?
その方がどんなにか私にとって気楽か知れないわ。

私たちの間に、
どうして情熱というガラスで出来た一種の仕切りを置かないの?
時にはひどく相手を変形して見せる、
でもひどく便利な……


(P.88)




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