映画 ~ STILL LIFE OF MEMORIES(スティルライフオブメモリーズ) ~




STILL LIFE OF MEMORIES(スティルライフオブメモリーズ)
配給:オムロ
監督:矢崎仁司(やざき ひとし)
脚本:朝西真砂(あさにし まさ)、伊藤彰彦(いとう あきひこ)
出演:安藤政信(あんどう まさのぶ)、永夏子(はる なつこ)、松田リマ(まつだ りま)
公開日:2018/7
ジャンル:ヒューマン






「スティルライフオブメモリーズ」は、質問をしないことを条件に自身の性器を撮影して欲しいという、女性からの稀有な依頼を、恋人がいる写真家の男性が受けることからはじまる映画です。

監督は山梨県出身、「ストロベリーショートケイクス」の矢崎仁司さんです。

脚本は「太陽の坐る場所」でも矢崎監督と組んだ経験のある朝西真砂さんと、「明日泣く」で企画・脚本を担当された伊藤彰彦さんです。伊藤さんは本作品のプロデューサーも担当しています。

主演のカメラマン役を「キッズ・リターン」や「バトル・ロワイアル」の安藤政信さん、撮影を依頼する女性役を、小池徹平さんの妻であり「7s(※小林夏子名義)」等に出演されている永夏子さん、カメラマンの恋人役をカフェ・ベローチェのCM等に出演されている松田リマさんが演じています。

本作品は、四方田犬彦さんのエッセイ「映像要理」から、アンリ・マッケローニの写真集といったものを題材として作り上げたとのことです。

舞台の一部は山梨県であり、国道52号や若草ランプの標識が作中で確認できます。



あらすじ


あたり一面の雑木林、一匹の鳥が横断する湖畔、現像室の一室赤い液体に浮かぶ1枚の写真、続けて、何枚ものモノクロの植物写真が写し出されています。


「gallary Cendres(サンドル)」、大部屋の中央には螺旋階段が備わっています。

白いシャツに赤いスカートを身に着けたポニーテールの女性(夏生/なつき/松田リマ)がその螺旋階段の周りで新体操のようなダンスを優雅に舞い、そのまま床に突っ伏します。

階上から青いコートに眼鏡を身につけた女性(怜/れい/永夏子)が降りてきます。

ギャラリースタッフである夏生は慌てて立ち上がり、回遊する怜の様子を眺めます。ギャラリーには何枚もの写真が吊り下げられ、壁に掛けられ、展示されています。そのギャラリーでは、3月5日から25日の期間にわたり、写真家、鈴木春馬(すずき はるま/安藤政信)の個展が開催されています。


怜が1枚の大きな写真の前で足を止めます。夏生が“気に入りました?”、と怜の横に立ちます。“写真家の鈴木春馬さんってどんな方ですか?”と怜は質問で返します。“うちのギャラリー、一押しの写真家”だと夏生は答えます。

そして、春馬は個展期間中は毎日ギャラリーに顔を出しているため、多分もう少ししたら来るだろうと、夏生は怜に補足します。ギャラリーに電話がかかってきて、夏生は傍を離れます。

怜は螺旋階段を上がって帰ろうとします。階段の途中で春馬とすれ違い立ち止まります。“個展を観に来てくれてありがとう、鈴木です”と春馬が怜に挨拶しますが、怜はまた階段を登り始めます。

春馬は携えていたカメラを構えて、階段を登っていく怜の写真を撮ります。


怜が向かった病院の一室、ベッドに女性(伊藤清美)が仰向けになっています。ベッドの女性は怜の母親のようです。怜がベッドの傍にあるテーブルに近づきます。テーブルの上にはスケッチブックがあり、その引き出しをあけると、中には絵の具や写真がありました。


春馬の仕事の一幕、街中?の噴水のような場所で、水着姿の三人の女性を、春馬がレフ係に指示を出しながらキャノンの一眼フィルムで撮影しています。

ギャラリーに戻る春馬と夏生、そして、赤いボブヘアの女性(ヴィヴィアン佐藤)、用意された三つのグラスにワインを注いでいます。写真芸術から取材の依頼がきていると赤髪の女性が春馬に伝えます。春馬は取材が苦手だと伝えます。

春馬に対して、今のシリーズを続けていくのか、と赤髪の女性は春馬に尋ねます。そして、春馬の写真が心の傷に触ると呟きます。

ギャラリーに電話がかかってきます。それは春馬に対する個人の写真の依頼でした。


その夜、春馬と夏生が裸でいます。二人は恋人同士で親密な関係にあるようです。



春馬は依頼人である怜と一緒に、山梨県にある絵の具の匂いが充満するアトリエへ出向きます。そこで、怜から今回の依頼内容が告げられます。

私のココを撮ってください、と怜が伝えたその先は、彼女の性器でした。そして、更に二つの約束を守るように告げられます。質問はしないこと、撮ったフィルムは彼女に渡すこと__



感想


自身の性器を撮影してもらうことに執着する女性と、女性の性器を撮影することに執着することになる男性という、独特で官能的で哲学的な作品です。

被写体の女性には母親の死が迫っていて、カメラマンの男性にはパートナーの妊娠という新しい生が迫っています。被写体の女性は撮ってもらうことに意味を見出し、現像は二の次です。しかし、カメラマンの男性は撮るだけでは満たされず、完成させるために現像させて欲しいと約束を反故にするようなことを主張します。

この作品はストーリーそのものに惹きつけられるというより、官能的、哲学的な部分で非常に印象的な作品です。海が母性の象徴だという話を他の作品で聞いたことがあります。それは生命の起源が海という理由だったり、海が胎児として羊水にいた記憶を想起させるという理由だったりします。そして、本作品も湖が登場したり、現像液とそこに漬けられた写真がそういったイメージを連想させる演出がされています。

また、男性一人と女性二人の話であり、必然的に嫉妬が絡む三角関係の話かとも思いましたが(多少はどうしてもそのような印象を抱いてしまいますが)、それは取るに足らない些細な出来事として感じられる、そのように描写されていると思える点も気に入っています。例えば、“春”馬と“夏”生といるのですから、怜ではなく、“冬”美や真“冬”といった名前でも良かったはずです。もちろん、それは安直過ぎておもしろくないから避けたのかもしれません。

男と女、生と死、動と静、絵と写真、植物と動物、時間、音、色、気づけたものも、気づいていないものも、細かい演出がたくさんある素敵な作品だと思います。


あなたの写真を見てると
時間が消えていくの

静けさの中に

かすかに聞こえる音がしたの




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