小説 ~ 再生ボタン ~




再生ボタン(さいせいぼたん)
著者名:福澤徹三(ふくざわ てつぞう)
出版社:幻冬舎
発売日:2000/3(2004/8)
ジャンル:ホラー





「再生ボタン」は仰々しい超常現象とは異なる、日常と非日常や現実と悪夢の境界、移ろいを描いた怪奇話の短編集です。

著者の福澤徹三さんは福岡県出身の作家で、他の著書に、2008年大藪春彦賞を受賞した「すじぼり」といった作品があります。小野不由美さんの小説「残穢」では著者をモデルにしたキャラクターも登場します(※映画版では、心霊マニアの会社員、三澤徹夫となっています)。

本作品は2000年3月にブロンズ新社より「幻日」のタイトルで刊行されていた作品ですが、文庫を発刊する際に、著者により推古され、一部内容が変更したりしています。

「厠牡丹」、「怪の再生」、「幻日」、「骨」、「釘」、「仏壇」、「お迎え」、「冥路」、「顔」、「廃憶」の10編が収録されています。


あらすじ

昼過ぎから家で読書をしていた男、ある作家の自称伝風の小説で、読む前から面白くなさそうだと読み始めたその小説は、案の定、面白くないものでした。

まず、文章が稚拙で読み辛い、話の組み立ても粗雑、そして、同じ内容のページが複数あるという乱丁具合と酷い有様でした。

家の書棚にあったその小説を、男は以前にも読んだような気がしています。出版元の記載のないその小説はどうやら私家版のようであり、男はとりとめもなく読書を続けているうちに、いつの間にか眠ってしまいます。


目覚めたときには外は真っ暗でした。霜の降りる底冷えする晩でした。男が独り身の晩御飯をとっていると、その冷え具合にお腹も反応したのか、用を足すために厠に向かいます。

厠の中で、男は不意に牡丹の話を思いだします。“夜ひとりで厠にいるとき、牡丹の花の折れるところを想像してはいけません”、誰かわからない白い顔の女の言葉を思い出し、牡丹の花が折れる様子を想像しながら、薄暗い厠でしゃがんでいると、突然、玄関の戸を叩く音がします。

そこには早く戸を開けろと、父親を名乗る男がいました__


(『厠牡丹』)



感想


ポルターガイストといった派手な超常現象が発生したり、スプラッターの残酷な描写があったり、貞子やチャッキーといった強烈なキャラクターがいたりするわけではなく、ジワジワと体に纏わりつくような恐怖を扱った短編集です。

怪談話にふさわしく、日常の中に非日常が紛れ込んでくる感覚、悪夢の中にいるような感覚、恐怖に驚くというよりは悪寒を覚えるような不思議さを楽しむ作品だと思います。マジックリアリズムの作品を読んだときのように、いつからおかしな世界に迷い込んでしまったのか、その登場人物の顛末がどうなるのか気になってしまいます。

怪談話といえば、幻を見ていた、夢を見ていた、叙述トリック、実は死んでいた、実は加害者だったと、ある程度、オチの大枠が決まりがちで、本作品は短編ということもあり、似たような結末を迎えるのはご愛嬌だと思っています。

心臓がバクバクする恐怖とは趣向が異なりますが、読みやすく、不思議な余韻も楽しめます。



夜ひとりで厠にいるとき、牡丹の花の折れるところを想像してはいけません




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