小説 ~ 11の物語 ~




11の物語(11のものがたり)
原題:Eleven
著者名:パトリシア・ハイスミス(Patricia Highsmith)
訳者:小倉多加志(おぐら たかし)
出版社:早川書房
発売日:2005/12
ジャンル:サスペンス





「11の物語」は著者のデビュー作を含む、風変わりな人や趣味、状況が織り成す不穏で奇妙な出来事を11編収録した短編小説です。

著者のパトリシア・ハイスミスさんはアメリカ出身の作家であり、他の作品に映画化もされた「The Talented Mr. Ripley(太陽がいっぱい)」や、「Strangers on a Train(見知らぬ乗客)」があります。著者はカタツムリの観察を趣味としていて、本作品にもカタツムリを題材とした作品が2編あります。

訳者の小倉多加志さんはイギリス文学者であり、早川書房の猿の惑星シリーズをはじめとして、数多くの作品の翻訳をされています。

本作品には、「かたつむり観察者(The Snail-Watcher)」、「恋盗人(The Birds Poised to Fly)」、「すっぽん(The Terrapin)」、「モビールに艦隊が入港したとき(When the Fleet Was In at Mobile)」、「クレイヴァリング教授の新発見(The Quest for Blank Claveringi)」、「愛の叫び(The Cries of Love)」、「アフトン夫人の優雅な生活(Mrs Afton, among Thy Green Braes)」、「ヒロイン(The Heroine)」、「もうひとつの橋(Another Bridge to Cross)」、「野蛮人たち(The Barbarians)」、「からっぽの巣箱(The Empty Bridhouse)」の11編が収録されています。



あらすじ


これまで金の問題にばかり首を突っ込み、生まれてこのかた自然に目を向けたことなどなかった、証券会社の役員、ピーター・ノッパード、彼はある光景を目撃したことをきっかけに、動物の美しさ、ある生物に執着することとなります。

その生物とは、カタツムリです。彼には食用カタツムリを観察するという趣味があります。最初は少数のカタツムリたちでしたが、2ヵ月後には、書斎の壁や窓、更には床にまで、カタツムリ用の水槽や鉢が書斎を埋め尽くすほどになりました。

ノッパード夫人はとても不服でした。書斎がそのような有様で、カタツムリが異様な臭気を撒き散らしていたためです。


ノッパードがそんな趣味を持つことになったのは些細な出来事がきっかけでした。夕食前に小腹を満たそうと台所に入った彼は、ふと、流しに置いたボウルに二匹のカタツムリがいるのを目にします。

ノッパードが目にした二匹のカタツムリは、向き合ったまま体をゆらゆらさせ、顔を近づけて官能的なキスをしているような奇妙な行動をとっていたのです。女性コックが部屋に入ってきたため、彼は彼女にこんなカタツムリを今まで見たことがあるか尋ねましたが、彼女は、“ありません。きっと喧嘩してるんですよ”と素っ気ない態度でした。

ノッパードはそのまま二匹をボウルごと自分の書斎に持っていき、百科事典などを駆使して調べていき、しまいにはカタツムリを育てはじめようとします__


(「かたつむり観察者」より)



感想


平穏なはずの日常が奇怪な人物によって綻びを見せたり、奇怪な状況に置かれてしまう人々を描いた短編集です。気が滅入るタイプの海外版世にも奇妙な物語と捉えるのがわかりやすいように思います。

読んでいる最中にゾワゾワと妖しさが襲ってきます。そして、その空気のまま物語は収束していき、何とも形容しがたい余韻に包まれます。

短編であるため、悪く言えば物語の起伏が少なく、盛り上がりに欠ける部分は否めません。しかし、読書中にこの著者の用意した怪奇な世界に迷い込むという点では、短編であることが功を奏していると思います。

個人的には、外部の人間の意地悪さに巻き込まれておかしくな方向に進んでいく、「すっぽん」と「野蛮人たち」の話が好きです。







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