映画 ~ きみの鳥はうたえる ~




きみの鳥はうたえる(きみのとりはうたえる)
配給:コピアポア・フィルム
監督:三宅唱(みやけ しょう)
脚本:三宅唱
出演:柄本佑、石橋静河、染谷将太
公開日:2018/9
ジャンル:ヒューマン






「きみの鳥はうたえる」は、男女三人の若者のひと時の何気ない日常、モラトリアムを描いた映画です。書店で働くフリーターと無職の男二人の共同生活に書店で働く同僚の女が加わり、金や地位がないなか、夜通し飲んで、遊んで、語り合う、日常を紡いでいく作品です。

監督・脚本は北海道出身で、「Playback」、「THE COCKPIT」等の三宅唱さんです。

主演は「偶然にも最悪な少年」や「初恋」等、数多くの映画・テレビドラマの出演されている柄本佑さんです。

主人公の書店の同僚役を、映画「生きてるだけで、愛。」や「いちごの唄」に出演されている石橋静河さんが演じています。

主人公と共同生活している男性役を、映画「寄生獣」や「パラレルワールド・ラブストーリー」の他、数多くの映画、ドラマに出演されている染谷将太さんが演じています。

他にも、書店の店長役を萩原聖人さん、共同生活している男の母親役を渡辺真起子さんが演じています。

小説「オーバー・フェンス」や「そこのみにて光輝く」の佐藤泰志さんの小説が原作となっています。

駅の改札で「南いさりび鉄道」との表記があるように、原作の舞台は東京ですが、映画では函館となっています。



あらすじ


街中の路上でスマホをいじる男(<僕>/柄本佑)、連れの男(静雄/しずお/染谷将太)が“飯どうする?”と尋ねながら二人は夜道を渡り歩きます。

静雄は兄貴に会って金を借りないとと言っています。静雄は無職であり、家族に金を無心しているようです。

<僕>のほうも書店で働いているフリーターです。静雄と二人で共同生活をしています。時期は8月、例え暦が9月や10月になっても次の季節はやってこないと<僕>は感じています。そんな享楽的な生活を二人は過ごしています。



閉店中の本屋、お疲れ様です。と店員同士の会話、<僕>は仕事をさぼっていました。先輩の男の同僚(森口/足立智充)はクビにしたほうがいいと店長に言います。

夜の街中で店長(島田/萩原聖人)と出くわす<僕>、明日の朝のシフトはちゃんと来い、やんわりと注意されます。店長の後ろからは同じ書店で働いている女(佐知子/石橋静河)もいました。

<僕>と佐知子がすれ違うさい、佐知子が軽く<僕>の腕に触れます。

何かの合図かと思った<僕>は少しだけその場で待っていようと思います。そんなに親しくもない女を待つのは<僕>にとってはじめての経験でした。勘違いかもしれないと、来なければ消えようと、120秒のカウントを心の中で数えます。

カウントが120に近づいた頃、“よかった、心が通じたね” と佐知子が戻ってきました。

タバコをくわえる<僕>、“火ある?”と佐知子に尋ねます。佐知子はライターを貸します。どっか飲みにいかないかと佐知子から誘いがあります。<僕>はいったん帰るから10時に待ち合わせしようと提案します。

後から連絡すると佐知子に伝える<僕>、しかし、佐知子は連絡先も知らないのに、適当なところがあると返されます。連絡先を交換し、二人は約束を交わして別れます。



静雄が女(直子/渡辺真起子)と飲んでいます。静雄は直子から金を貸してくれないかと言われます。先月で失業保険がきれたから金がないと、金なら兄貴から借りてくれと静雄は答えます。

直子はボケたら治療せずに殺して欲しいと静雄に頼みます。静雄はわかったわかったと軽く受け流します。直子は、タバコをふかしながら、静雄には無理だろうねとつぶやきます。



静雄が独り部屋で音楽を聴きながら何かを読んでいます。小さな明かりだけがついていて、部屋の隅で壁を背にして読んでいます。

そこに<僕>が帰ってきます。タバコをくわえ、ラフな格好です。二人は一緒に出かけます。船が停泊している港に行って雑談したり、ビルの前のスタンド花を勝手に持っていったり、くだらないことで盛り上がります。



翌日、<僕>は書店で働いています。店長が<僕>に酒臭いと、革靴に履き替えろと注意します。

トイレでは同僚の森口と鉢合わせになります。何か言うことあるだろと、お前ってほんと嘘つきだなと好き勝手にしゃべっています。

昼休憩、喫茶店に行く<僕>、そこで佐知子と会います。ありがとうと<僕>はライターを返そうとしますが、佐知子はあげると言って受け取りません。

<僕>は昨日店に行ったのか佐知子に尋ねます。“うん、もちろん”と佐知子は答えます。

佐知子は“何で約束破ったの?”と<僕>に尋ねます。気づいたら寝てたと<僕>は答えます。

<僕>は佐知子に同居人がいて二人で暮らしていることを話します。理由を尋ねられますが、二人で住むほうが家賃が安いという理由しか答えられません。


その後、仕事に戻った二人、仕事中にスマホでメッセージのやり取りを密かにやりあう二人、そして、仕事が終わって夕日が差し込む<僕>の家でキスをしている二人がいます。

佐知子は“めんどくさい関係は嫌だから”と言います。<僕>は“ゴム持っている?”と尋ねます。

二人の情事中に静雄が帰ってきます。鍵を開けて女の声が聞こえた静雄は、気をきかせて出かけます。

情事の後、静雄が戻ってきて部屋で三人でだべります。それから、三人で過ごす時間が増えていきます__



感想

社会の一員となりきれないモラトリアムにいる若者を描いた作品です。個人的にはオダギリジョーさんが主演の、まったく未来が明るく感じられないのに「アカルイミライ」というタイトルの映画以来の印象的なモラトリアム作品だったように思います。

心理描写のナレーションは僅かであり、説明的な台詞もなく、画面外に話者がいるシーンもあり、劇的な起承転結もない、観客を考慮しないことを徹底的に考慮した作品だと観賞していて思いました。そのため、登場人物の台詞や表情が淡々と流れていく様子を観賞しつつ、登場人物の底にある感情だったり、台詞の隠された意図を自ら探りにいく形となります。結果として、他の映画であればそのシーンは必要?と言いたくなるシーンがこの映画にはなく、一つ一つのシーンを楽しみ、そして物語の余韻に浸ることができました(と言いつつも、<僕>が120カウントするシーンは一切カットしないで欲しかったといった、取るに足らない希望はありますが)。

主役の三人も、脇を固める出演者も、決して派手ではないが個性的な登場人物を映しています。特に石橋静河さんは目を惹かれました。終盤の表情も、クラブやカラオケでの表現も、うつぶせの<僕>の上から覆いかぶさる妖艶さも、全体を通して強い印象を残しています。

タイトルはビートルズの曲に由来していますが、作中の音楽として曲が利用されているわけではありません。しかし、作中で聞こえてくる日常生活での鳥の鳴き声が強く響いてくるのはタイトルが原因だと思います。


いつまで自分がここに残ることになるのか
今はまだわからない

病院特有のこの臭いが耐え難かった

三人で過ごした部屋の匂いや
街の匂いを思い出そうとした

でも
どうしても思い出すことができないままだった



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