小説 ~ テミスの剣 ~




テミスの剣(てみすのつるぎ)
著者名:中山七里(なかやま しちり)
出版社:文藝春秋
発売日:2014/10(2017/3)
ジャンル:サスペンス、警察、司法・法廷・犯罪




「テミスの剣」は、過去の強盗殺人事件に冤罪の疑いを抱いた刑事が、真相解明に奮闘する警察小説です。強引な捜査手法のベテラン刑事とタッグを組み、殺人事件の容疑者から自白を引き出した若手刑事、容疑者は裁判で死刑判決を受けて自殺します。しかし、5年後、似た手口の強盗殺人事件が発生します。その容疑者に疑いを抱いた刑事は、彼の口から過去の事件に関わったとする供述を引き出してしまいます。彼は警察組織や裁判官を巻き込んで、事件の全貌解明にあたろうとします。

著者の中山七里さんは岐阜県出身で、このミステリーがすごい!大賞を受賞した「さよならドビュッシー」の岬洋介シリーズといった著書があります。本作品の登場人物が著者の他作品に登場するクロスオーバー作品が多いことも特徴です。

2017年には上川隆也さん主演でテレビ東京特別企画としてドラマ化もされています。



あらすじ


昭和59年、11月2日の夜、埼玉県浦和市、布団に入ろうとしていた若手の刑事、渡瀬(わたせ)は電話に呼び出されます。隣では妻の遼子が、また?と非難の態度を覗かせています。

着替えを終えると、電話の主である男がちょうど出迎えに来ていました。男の名前は鳴海健児(なるみ けんじ)、55歳、キツネのような細くて陰険な目をした男です。捜査畑一筋で職務を全うしてきた鳴海は、検挙率で署内トップクラスの実力を誇ります。人格は決して誇れるものではない彼は、刑事として配属されたばかりの渡瀬の教育係であり、パートナーです。

目的地は浦和インター付近のホテル街にある不動産屋、それを経営する夫婦が刺殺体で発見されました。現場の状況から強盗事件が真っ先に疑われます。鳴海は、こんな場末にある不動産屋にわざわざ強盗が入ったことに疑問を抱きながら、夫婦が違法な高金利の金融業を営んでいたとされる帳簿を発見し、容疑者を絞っていきます。

帳簿に記載された65人のアリバイや怨恨の有無を刑事二人で捜査した結果、一人の被疑者が浮上します。男の名前は楠木明大(くすのき あきひろ)、任意同行と伝えつつ、鳴海は半強制的に楠木を拘束します。

強引な手法で被疑者から自白を引き出す鳴海、最終的に楠木は強盗殺人事件で裁判に掛けられます。


その事件は後に警察や法曹界に大きな問題をもたらすこととなります。ギリシア神話の正義の女神、テミスが持つ<剣>と<天秤>の意義を関係者に問いかけながら__



感想


高野和明さんの「13階段」や薬丸岳さんの「天使のナイフ」に代表される司法制度を考えさせる社会派小説、乃南アサさんの「禁猟区」や映画「ポチの告白」といった組織や個人の腐敗を描いた警察小説、本作品は両方を描いている読み応えのある作品です。

本作品中でメディアに携わる登場人物とのやり取りに、大衆は権威を叩くのが大好きだとの内容がありました。確かに、権威を与えられた者が勘違いしている様子が癪に障るというのは、そのとおりだと思います。

本作品では主人公が冤罪の原因に深く関わってしまっています。被害者目線であれば、考えを改めたと謝罪されてもとうてい許されるものではありません。ただ、主人公の自身の過ちに真摯に向き合う姿勢は読んでいて応援したくなります。読んでいて共感しやすい境遇、心情描写でした。

数十年を跨いで一つの事件とそれに派生するに事件に深く向き合っている作品というのも珍しいと思います。ただし、ホテル従業員の記憶等、終盤に少し都合が良すぎる展開だと感じたのは残念です。話の展開(秘密を握りつぶそうとする警察組織の存在)上、仕方ないのですが、「秘密の暴露」に関する裏付捜査に関しては、その時点で描写して欲しかったと思います。


真摯な思いを誰が嗤うものか。
わたしたち検察官や君たち警察官は権力を与えられている。
権力を持つ者が真摯でいなければ正義はいずれ破綻する




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