小説 ~ 鈴木ごっこ ~



鈴木ごっこ(すずきごっこ)
著者名:木下半太(きのした はんた)
出版社:幻冬舎
発売日:2015/6
ジャンル:ヒューマン、サスペンス




「鈴木ごっこ」は、巨額の借金を抱えた老若男女の4人が、鈴木家という仮の家族として1年間暮らすことで借金を帳消しにするという、甘くて謎の言葉に誘われるまま家族ごっこを始める物語です。

著者の木下半太さんは大阪府出身の作家で、他の著書に「悪夢のエレベーター」といった悪夢シリーズ、「サンブンノイチ」といったブンノシリーズといった数多くの映像化もされた作品があります。

本作品は2015年8月に、内田英治さんと著者の共同監督、斎藤工さん主演で映画化もされています。


あらすじ


四月一日、午後11時、幸福な家族像を連想させる食卓の前で一人、沈痛な面持ちの女性、そこにインターホンが鳴り渡ります。

玄関に向かった彼女の目の前に現れたのは黒いワンボックスカーと、そこから降りてきた三人の不健康そうな男たちでした。

彼女は男たち三人をリビングへと案内します。お腹を空かしていた男は家にあったカップラーメンを食べようとします。

三十代前半のスーツ姿で美形ではあるが眼光が鋭く冷たい男性、四十代後半から五十代の白髪交じりでお腹がぽっこりと出ている落ち着きのない男性、そして、少年の面影が残る二十歳前後のパーカー姿の男性がいます。

彼女と男三人は、カップラーメンの細かい作り方や、近所にスーパーがあるのかといったことを会話の話題にしています。彼女たちは、一年間、この家に住まなければならないようです。



彼女に転機が訪れたのは2ヶ月前でした。

大阪でデザイン会社を経営する夫と、中学受験を終えた一人娘と暮らしていた女性、料理が好きでカフェで働いていたところ、突然、一般人と異なる雰囲気をまとったスキンヘッドの男が現れ、夫に二千五百万円の借金がある、と告げられます。

借金を返済するために、スキンヘッドの男から彼女に与えられた条件は、“鈴木になるんだよ”という一言でした。

混乱する彼女に続けられた説明は、東京の世田谷区にある一等地の空き家に鈴木として1年間暮らして貰うこと、独りではなく、赤の他人と家族ごっこをしてもらうという内容でした。

スキンヘッドの男は寂しそうに言いました。単身赴任みたいなものだと、俺も仕事のために美人の嫁と別々に暮らしているのだから、我慢しろと__



感想


偽りの家族が本物の家族のような一面を見せるホームドラマ的な側面と、家族ごっこをするだけで借金がチャラになるという謎を追うサスペンスの側面を楽しめる作品です。

赤の他人同士が織り成す軽快な会話劇が目を引き、テンポ良く読み進められます。

そして個人的にとても気に入っている点は、この小説がフェアである、と感じられたことです。物語の終盤を盛り上げるために、もっと意地悪に構成することもできたと思われます。しかし、双子の娘がいることや、タケシの恋愛経験、等々、読んでいて違和感を覚える場面をあえて用意してくれています。

名前の無理矢理感が強すぎるのはご愛嬌だと思います。



カツオはつい笑みを零した。
本当の親子じゃないが、仲は良い。
だからといって友達とも違う。
同志……いや、やはり家族という言葉がしっくりくる。
それがたとえ、紛い物であってもだ。



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