小説 ~ 玩具修理者 ~




玩具修理者(がんぐしゅうりしゃ)
著者名:小林泰三(こばやし やすみ)
出版社:角川書店
発売日:1996/4 (1999/4)
ジャンル:ホラー、SF





「玩具修理者」はとある女性の昔話、摩訶不思議な方法で玩具を何でも直してしまう玩具修理者と当時の女性が抱えた秘密を回想形式で語るホラー小説です。

著者の小林泰三さんは京都府出身の作家で、他の著書に、2012年に星雲賞日本長編部門を受賞した「天獄と地国」や、2014年に啓文堂大賞(文芸書部門)を受賞した「アリス殺し」があります。

本作品は1995年に日本ホラー小説大賞短編賞を受賞しています。

2002年には、はくぶん監督、田中麗奈さんと忍成修吾さんが主演で映画化もされています。

表題作の他に、不思議な女性を巡る男二人の狂気を時間逆行のSF要素を絡めて描いた「酔歩する男」があります。



あらすじ

日の入りの遅い夏の日、夜が近づく午後7時という時間帯ながら、太陽光が眩しいくらいに差し込む喫茶店、二人の男女が会話を交わしています。

女はいつも昼間にサングラスをかけていました。夜はサングラスをかけていたり、かけていなかったりしていましたが、昼には例外なく、いつもサングラスを身に着けていました。

いつもサングラスをかけている理由を、男が思い切って女に尋ねてみました。

女は答えました、“事故よ”と、男は詳しく聞こうとさらに尋ねました。その事故は、女が七つか八つ、もしくはもっと小さかったときに起こったものということです。

女はどうせ信じないと男に伝えます。男は聞いてみるまではわからない、と答えます。

決心がついたのか、女は話を続けます。それは、小さいころに近所にいた玩具修理者の話でした。

『ようぐそうとほうとふ』や『くとひゅーるひゅー』と呼ばれているが本当の名前がわからない、国籍も年齢もわからない、そして、男か女かさえわからない、店を構えているわけでもなく、小屋のような家のような場所にいて、近所の子供たちが壊れたおもちゃを持ってくる、それが女が説明した玩具修理者の特徴でした。

玩具修理者は新しいものでも古いものでも、単純なものでも複雑なものでも、何でも子供たちの希望のとおりに壊れたおもちゃを直しました。

しかし、彼女が続けて話し始めた壊れたおもちゃの修復方法やその様子は、とても男が理解できるものではありませんでした__



感想


登場人物の過去の不気味な体験談を回想し、現在へと繋がり収束していく話の2編です。

「玩具修理者」は「世にも奇妙な物語」や「週刊ストーリーランド」でありそうな短編であり、ドキドキする恐怖というよりも、ゾワゾワする不気味さが楽しめる作品でした。

そして、「酔歩する男」に関しては、シュレーディンガーの猫や粒子線癌治療装置、タイムトラベルといった物理、医療、SFを扱っています。タイムトラベルの方法や理論が変わった切り口であり、その点がとても気に入っています。

残念だったのは、オチというか、話の終着点が2編で同じような形であったため、「酔歩する男」に関しては結末のカタルシスが弱かった点です。この2編を続けてではなく、別の形でそれぞれ読んだほうがおもしろかった気がします。

なお、「酔歩する男」に登場する人物の名前が特徴的ですが、奈良時代の古の言い伝え「菟原処女の伝説(うないおとめのでんせつ)」からの引用のようです。


自分でそう思い込んでるだけよ。
物心がつくとすぐに大人から教えられたり、大人の様子を見たりして、一つずつ覚え込んでいくだけなのよ。
人間は生きている。猫は生きている。石は生きていない。
そう、思い込んでるだけなのよ。何の根拠もないわ。じゃあ聞くけど地球は生きてるの?



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