映画 ~ 幕が上がる ~




幕が上がる(まくがあがる)
配給:ティ・ジョイ、東映
監督:本広克行(もとひろ かつゆき)
脚本:喜安浩平(きやす こうへい)
出演:ももいろクローバーZ、黒木華
公開日:2015/2
ジャンル:青春





「幕が上がる」は地方高校の弱小演劇部を舞台とした青春映画です。世代交代で部長となりつつも演劇への悩みを抱えていた女子生徒、元演劇経験者の新任教師との出会いや仲間とのやり取りをきっかけに、大きな目標を立て、成長していく様子を描いた作品です。

監督は香川県出身で、「踊る大捜査線 THE MOVIE」、「UDON」、「亜人」等、数多くの監督作品を持つ本広克行さんです。

脚本は愛媛県出身の喜安浩平さんです。本作品の他に、「桐島、部活やめるってよ」で吉田大八さんと共同で脚本を担当されたり、声優としてアニメ「はじめの一歩」で主人公の幕之内一歩役を担当されたりしています。

主演は主人公の部長役に百田夏菜子さん、華やかな演技力も備える主人公の良き友人役に玉井詩織さん、同じく主人公の良き友人でガルルの愛称で親しまれているムードメーカー役に高城れにさん、主人公の下級生のしっかり者役に佐々木彩夏さん、転校生で主人公の良き相談役となる有安杏果さんと、ももいろクローバーZの5人が出演されています。

他にも、元演劇経験者で新任として配属される教師役を黒木華さん、演劇部の顧問役をムロツヨシさん、後輩役に吉岡里帆さんや芳根京子さん、生徒の家族役としてプロレスラーの天龍源一郎さんが出演されています。

原作は2012年に出版された劇作家である平田オリザさんの小説です。

なお、静岡県を舞台にしていて、打ち上げ時に静岡県のファミレス「さわやか」を連想させるシーンもあります。


あらすじ


河川敷、大会で使用した小道具を焼却している前で台本を見返している一人の女子高生(高橋さおり/サオリ/百田夏菜子)がいます。

そこへ友人の二人(ユッコ/玉井詩織、ガルル/高城れに)が自転車に乗ってやって来ます。他の演劇部の生徒も集まってきます。顧問の先生(溝口先生/グッチ/ムロツヨシ)は一人で水を運んでいます。

サオリは持っていた<ウインターマシンブルース>と書かれた台本を火の中へ投げます。
(※ウインターマシンブルースは本広克行監督の戯曲<サマータイムマシン・ブルース>を連想させます)

サオリは秋の地区予選のことを思い出します。顧問のグッチが一人泣いている中、3年生の部長(杉田先輩/秋月成美)が負けは負けだ、と自分と部員を鼓舞していました。その近くには、地区予選を通過した強豪校のセイシン学院高等学校が県大会に向けての抱負を述べ、撤収作業に取り掛かっています。サオリはそこにいた一人の女子生徒(中西さん/有安杏果)が気になります。

台本を焼却した後、ユッコとグッチの半ば強引な推薦によって、サオリが次の部長を務めることになりました。

高校演劇は秋に1回だけ1時間の演技を審査されます。サオリは部長として、“負けたら嫌なの、勝ちたかったの”と決意表明を述べます。


サオリが所属するのは富士ヶ丘高等学校の演劇部です。2年生はサオリの他に、華やかでお姫様キャラのユッコと、バイト娘でムードメーカーのガルルがいます。他に1年生が4人いて、計7人で部活に臨んでいます。

サオリは父(片山正通)と母(清水ミチコ)と弟の4人家族です。家にはピアノも置いてあり、活発な弟はそれを演奏した後で、ユニフォーム姿のまま出かけていきます。

一方で、サオリはソファーで横になり漫画を読んでいます。母はその様子を眺めながら、進路のことを考えると気を失いそうだと愚痴を言います。父はサオリのことを信頼しているのか、大丈夫だろうと言って、そのまま出かけていきます。

すると、引退した杉田先輩から電話がかかってきて、サオリは先輩に会いに行きます。到着すると、先輩がカメラを抱えて待っていました。オーディションに送るための写真を撮りたいと、その写真をサオリに撮って欲しいと、演劇を辞められないと、東京でオーディションを受け、経験をつんで、劇団を作り、作家をやるのが目標だと、そうして、自分の世界が目の前でできあがっていくと、先輩はサオリに語ります。

サオリはそれを聞きながら別のことを考えていました。私には自分の世界が浮かんでこないと。


3学期になりました。演劇部の課題は新歓で何をやるかです。サオリは悩み、グッチに相談しますが、演劇についての知識が乏しいグッチは頼りになりません。

サオリは図書館に行きます。そこで本を見回している最中に余所見をしてしまい、そこにいた他校の生徒とぶつかってしまいます。ぶつかったのは地区予選のときに気になっていた中西さんでした。

中西さんがその場から離れた後、中西さんが見ていた棚に目を向けるサオリ、そこにあった、<ロミオとジュリエット>の本を手にします。サオリは新歓でそれを上演することにしました。

そして年度が変わった4月、進学した演劇部員が<ロミオとジュリエット>を上演します。しかし、もともと少なかった見学者が、劇中で次々と退席したり、余所見をしたりと結果は散々でした。サオリはどんどん自信を失っていきます。

しかし、ある日、練習のため美術室にいくと、一人の新任の先生(吉岡先生/黒木華)がいました。彼女は元演劇経験者であり、悩んでいる様子のサオリの力になろうとします__



感想


高校演劇を舞台とした文化系青春映画です。演劇部ということで作中では宮沢賢治さんの「銀河鉄道の夜」をベースとした劇中劇などがあります。

新しく部長を任され、次年度には受験を控えている中、なぜ演劇をしているのか、どうやったら皆から信頼されるか、不安や葛藤を抱えた主人公が仲間や先生の協力を得て前へ進もうとする、青春作品としての起承転結が丁寧に描かれていて多くの人が楽しめる内容になっていると思います。

少し物足りないと感じたのは人間ドラマの部分です。ラブロマンスを一切排除したのはいい点だと思います。しかし、仲間に関しては、主人公を除いた生徒の対立やスランプが簡単に解決しすぎだったように思います(主人公と比較すると尚更)。そのため、抱えていたものが軽微な問題だった印象を受けてしまいました。尺の問題や、主人公ばかりにスポットを浴びせすぎるわけにはいかない出演者の問題があると思いますが、その点は少し残念に思いました。

そんな中、本作品で抜群の存在感を放ったのが新任教師役を演じた黒木華さんでした。指導する姿、寄り添う姿、そして、自身もまた前に進もうとする存在であること、その姿が素敵でした。

ももクロさんの代表曲である「走れ!」が作中で流れてきたときは青春作品として心地よい爽快感に魅せられました。ももクロさんの熱狂的なファンであるモノノフでなくとも、魅力的な作品だと思います。

演劇のおかげでこんなに話せている
演劇って一人じゃできないんだねって

うん、そういうことだと思う

だから、始めた理由は大してない
でも、やめる理由はもっとない
私はたぶん、ううん、絶対、最後までやり通す、演劇部を



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