小説 ~ 教場 ~



教場(きょうじょう)
著者名:長岡弘樹(ながおか ひろき)
出版社:小学館
発売日:2013/6
ジャンル:ヒューマン




「教場」は、警察官になるために警察学校初任科の短期過程に入校した生徒たち、彼らが迎える半年間の過酷な訓練や授業、厳格な規律、理不尽な人間関係を描いた短編集の警察小説です。

著者の長岡弘樹さんは山形県出身の作家で、他の著書に2003年第25回小説推理新人賞を受賞した「真夏の車輪」といった作品があります。本作品は「週刊文春ミステリーベスト10 2013年」で第1位にランクインされています。

本作品は「職質」、「牢間」、「蟻穴」、「調達」、「異物」、「背水」、「エピローグ」からなる短編集です。一つの話のその後の顛末が別の作品で判明することがあり、それぞれの作品間の繋がりは強いです。


あらすじ


「第一話 職質」

教場に響き渡る声の中、五分刈りにした自身の頭の感触を密かに楽しむ警察学校初任科第九十八期短期課程の生徒の一人、宮坂定(みやさか さだむ)、彼は地域警察実務の授業を受けています。

響く声の主は植松という教官であり、重要なポイントをメモするように生徒に指導しています。

続いて、植松が生徒を一人呼んで、職務質問の実演を命じます。

呼ばれたのは、警察官の父親を持つ生徒、平田和道(ひらた かずみち)です。宮坂は過去に平田の父親に命を救われ過去があり、その縁もあって平田と仲良くしています。

平田は植松の大きな声にすぐに怯んだり、相手の手の動きに目を離したり、出来が良くなく、植松から駄目だしを受けています。

宮坂はその様子を見る一方で、教場のドアにいる一人の男が気になっています。ドアの小窓から教場を覗いている男、五十くらいの白髪、義眼のように目の焦点が定まっていない男です。

続いて、植松は宮坂に職務質問の実演をさせます。宮坂は先ほど言われたことさえできませんでした。植松から耳たぶを引っ張られながら注意を受け、さらには、お前には警察官は無理だから、いつ辞めるんだと圧力をかけられます。

その苦しさから意識を逸らすために、宮坂が目をドアのほうに向けたときには、先ほどの白髪の男は姿を消していました。


宮坂は授業中あることを隠していました。そして、宮坂が隠していること、さらにその隠し事がもたらす不穏な空気を、ドアにいた白髪の教官、風間公親(かざま きみちか)は見抜いていました__



感想


短編で読み易い作品です。ただし、物語の顛末がその章だけでは判明せず、次の章になって結果がわかる話があり、そういった構成は個人的に苦手です。

読む前から警察学校に対する厳しい印象を漠然と抱いていましたが、その予想を裏切らずに、理不尽な要求と環境に置かれる生徒たちの苦悩や確執を感じられます。参考文献が10冊ほどあり、どこまで現実の環境に近いかは判断しかねますが、厳しい場のようです。

しかし、“不要な人材をはじきだすための篩(ふるい)”という言葉があるように、警察官は時にはその身を犠牲にして危険に身を投じたり、また、国家という権力を行使できる立場にあります(私は映画「ポチの告白」の印象を受けすぎているのかもしれませんが)。それを考慮すると、厳格な訓練を通して、警察官としての適正、素質を確認するという意味を理解できますし、また、苦境を乗り越えられる人物こそが警察官にふさわしいということが、本書の登場人物を見ていて思い知らされます。その点でいい作品だと思います。

ただ、そういった厳しい環境を上回るレベルで陰湿すぎる登場人物が次々と出てくるのは、いくら小説といっても、やり過ぎな気がします。短編として魅力のある作品ですが、警察学校という珍しい舞台ということを活かしつつ、フィクションを意識させないくらいの長編も読んでみたいと思いました。





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