アナザーフェイス
著者名:堂場瞬一(どうば しゅんいち)
出版社:文藝春秋
発売日:2010/7
ジャンル:サスペンス
「アナザーフェイス」は、子育てのために現場から離れていた刑事が、銀行をターゲットとした誘拐事件を契機に現場へ復帰し、その能力を活かして事件解決を目指す様子を描いた警察小説です。
著者の堂場瞬一さんは茨城県出身の作家で、「刑事・鳴沢了シリーズ」や本作品を含む「アナザーフェイスシリーズ」、その他スポーツ小説といった多くの著書があります。
本作品は2012年にテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で仲村トオルさん主演でドラマ化されています。
あらすじ
警視庁1階の食堂、大友鉄(おおとも てつ)は親子丼を食べながら近所のスーパーのちらしを眺め、今日の買い物の内容を検討しています。彼の元に捜査二課に所属する同期の刑事、武本一郎(たけもと いちろう)がやってきて、近況を報告しあいます。
捜査二課の刑事として情報収集を専門とする武本は、現在、ある銀行の不正融資に関わる噂を入手し、対応に追われているようです。
一方の大友のほうは、小学校2年生の息子である優斗(ゆうと)の献立、好き嫌いや栄養バランスを心配しています。
大友も2年前までは一課で第一線で活躍する刑事でした。炎天下の聞き込みや取調べ、それらが彼の日常でした。
しかし、2年前に妻の菜緒(なお)を亡くしたことで、大友は仕事と育児を両立するため、現場を離れて総務課へ異動しました。現在は5時の定時に仕事を終え、義母である矢島聖子(やじま せいこ)の元に預けている息子を迎えにいき、子育てに奮闘するという日常です。
書類の整理や会議の議事録作成、もろもろの雑用といった総務の仕事を遅延なくこなし、料理を作って、部屋を掃除し、息子とコミュニケーションをとる、大人としての義務を果たす一方で、大友はどこか寂しさも感じていました。
大友が働いている総務課の一室、隣にいた同僚の畑野(はたの)の“誘拐だ?”の一言から、周りの課員が集まってきます。
目黒署管内で発生した誘拐事件、被害者は6歳の内海貴也(うつみ たかや)、家族構成は父親が首都銀行渋谷支店に勤める貴義(たかよし)、母親が瑞希(みずき)で、犯人の要求は“銀行が一億円払えば安全に返す”というのが事件の概要です。
特捜本部が設置され、慌しくなった総務課内でも課長の白木から様々な指示が課員に飛びます。しかし、大友には何の指示も与えられません。それが暗黙の了解となってしまっています。
大友も事件の概要を聞いて気が気でありません。子供が被害者となってしまう事件は、すぐに自分の子供に置き換えて考えてしまうためです。誘拐された場所が幼稚園だったことも、大友が怒る原因となっています。
そうは思っていても、結局、大友は事件に直接関わることはできません。今日も定時に帰宅して息子を迎えにいく予定でした。しかし、突然、大友の持っている携帯電話が鳴り響きます。
電話の主は、刑事部の実質的なナンバースリーの立場にいる、刑事部特別指導官の福原聡介(ふくはら そうすけ)からでした。福原は過去に大友の上司になった男でもあります。
久しぶりの電話でしたが、その内容は、すぐに日比谷公園に出て来い、というものでした。
公園に呼び出された大友、そこで伝えられたのは、誘拐事件に関して正式に特捜本部に加入しろとの命令でした__
感想
子育てと仕事の両立に苦労している、元演劇畑にいたイケメン刑事が主人公の警察小説です。
主人公はイケメンですが、刑事小説でよく見られるハードボイルド路線とは異なります。それもあってか、作品全体が草食系で温かみのある印象です。
捜査も丁寧に着実、共感しやすい登場人物と心情説明、素直な展開と読みやすい小説です。
扱っている事件はもちろん大きいのですが、街全体を巻き込んでのテロや、仰々しく暴力団が登場したり、合法・非合法を問わず海外の組織がちょっかいを出してくるといったこともありません。よって、冒頭の身代金の受け渡しの場面以外は、事件解決までを含めて、もう少し盛り上がって欲しいなという印象を持ちました。
また、主人公以外のキャラクターの扱いが少し不遇に感じました。
猪突猛進タイプの柴や、経験に乏しい森嶋といった同僚は、残念ながら本作中では、主人公の引き立て役にしか見えませんでした。
また、周囲に強烈な印象を与える女性記者の沢登(さわと)は魅力的なキャラクターに思えたのですが、いかんせん本作品では活躍の場が少なかったように思えます。
ただ、本作品はシリーズ物ということであり、話を重ねていくごとに盛り上がっていく予感がするため、期待を抱ける作品です。
考えることをやめた時に、人生は停滞するのだ。前へ進めなくなるのだ。
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