青春の殺人者(せいしゅんのさつじんしゃ)
配給:日本アート・シアター・ギルド(ATG)
監督:長谷川和彦(はせがわ かずひこ)
脚本:田村孟(たむら つとむ)
出演:水谷豊(みずたに ゆたか)、原田美枝子(はらだ みえこ)
公開日:1976/10
ジャンル:ヒューマン
「青春の殺人者」は、父親の用意したスナックを経営する青年が、両親との衝突をきっかけに起こした事件を描いたヒューマン作品です。
監督は広島県出身で「太陽を盗んだ男」で監督・脚本を務めた“ゴジ”の愛称を持つ長谷川和彦さんです。
脚本は青木八束(あおき やつか)名義で芥川賞候補作品も持つ小説家としても著名な、群馬県出身の田村孟さんです。
脚本内容を巡っては、長谷川監督と田村脚本の間で改変の要求といった確執があったこともインタビュー内で語られています。
主演は、テレビドラマ「相棒シリーズ」の主人公、杉下右京役でおなじみのの水谷豊さんです。
ヒロイン役を黒澤明監督、長谷川和彦監督、深作欣二監督といった数多くの監督作品への出演経験を持つ原田美枝子さんが務めています。
本作品には他にも、内田良平さん、市原悦子さん、桃井かおりさん、地井武男さんといった、そうそうたる俳優が出演されています。
本作品は1974年に発生した市原両親殺害事件をもとにした中上健次さんの小説「蛇淫」が原作となっています。
あらすじ
スナックの店先でじゃれあっている二人の男女がいます。男の名前は斉木順(さいき じゅん/水谷豊)、女の名前はケイ子(原田美枝子)です。
とある大雨の日、成田空港近くにあるそのスナックから順が外出しようとしています。
ケイ子から派手な女物の傘を渡されます。土砂降りの中、それを差して順は出かけます。道路には水溜りができていて、車が通る際には水しぶきが順を襲い体はびしょびしょになります。
電車に乗り、バスに乗り、移動する順、道中にはケイ子とのことを思い出しています。
情事を終えた裸の二人、ケイ子は左からの音がよく聞こえません。中学生のときに、順の家の庭にあったイチジクの実を勝手に食べたことで、母親にひどく叩かれた影響だと順は聞かされます。
順は車関係の整備工場な場所にたどり着きます。順の父親(内田良平)は、自営業を営んでおり、母親(市原悦子)もその仕事を手伝っているようです。
順は両親に見つからないように事務所にこっそりと潜入して、車の鍵を拝借します。
順は車に乗ってその場から離れようとしますが、両親に見つかってしまいます。
土砂降りの雨が降り続く中、順は台所で父親と二人向き合います。
父親は順に対して、ケイ子と別れなければ店を取り上げると言い放ちます。
順は反発します。昔から与えては取り上げるの繰り返しだったと、車の次は店かと、それならば最初から与えなければ良かったのにと言います。
父親は興信所を利用してケイ子の調査までしているようです。
その調査をもとに、ケイ子は過去に母親が連れ込んでいた男に色仕掛けをしかける淫乱な女だと、父親は順を説得しようとします。
不安を覚えた順は、昔、家の庭にイチジクがあったかを尋ねます。少し考えた父親は、イチジクではなく、庭にあったのはヤツデだと言います。
時間が経ち、母親が台所にやってきます。
順の顔は汗まみれでした。そして、その体は血まみれでした。
床の真っ赤な血溜りには父親が仰向けになっています。
順は右手に包丁を抱えていました__
感想
今から半世紀近く前の映画です。
今年1月にご逝去された市原悦子さんや、2012年にご逝去された地井武男さん、相棒の刑事役からは想像できない危うい若者役を務めた水谷豊さん、等、数多くの作品に出演されている俳優の方々の過去の映像が楽しめます。
特に母親役を務める市原悦子さんと、その息子役となる水谷豊さんの二人の一室でのやり取りは、愛情と狂気が重なり強烈な印象を与えます。
予算が限られ、今と比較して技術も発展していない条件下という部分で、観ていて違和感を覚える場面も確かにあります。回想への場面転換、父親の古風な笑い声、イチジクを連想する白い液体の演出を安っぽく感じてしまう場面もありました。
ただ、親殺しという社会問題、行き当たりばったりで身勝手な若者、子を思う母親の愛情、といった現在でも通じる娯楽作品としての魅力、また、映像や音楽、俳優陣といった当時だからこそ味わえる魅力、たまにこういった作品を鑑賞してみることで新しい発見に出会えます。
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