異邦人(いほうじん)
原題:L'Étranger
著者名:アルベール・カミュ(Albert Camus)
訳者:窪田啓作(くぼた けいさく)
出版社:新潮社
発売日:1954/9 (原題発表 1942)
ジャンル:ヒューマン
「異邦人」は母親の死から始まる一人の男性の数日、仕事や恋愛や友情、そしてある事件とその後の顛末を、常識や社会といった世の不条理を踏まえて描いた小説です。
著者は1913年にフランス領アルジェリアに生まれ、「ペスト」等の小説や、「カリギュラ」、「誤解」といった戯曲でも著名であり、1957年には43歳の若さでノーベル文学賞を受賞しています。
1967年には「Lo straniero」のタイトルで、イタリアで映画化もされています。
あらすじ
北アフリカ、アルジェリアの首都アルジェで暮らしている一人の男、ムルソー、彼は養老院から母の死を知らせる電報を受け取ります。
2時のバスに乗れば、80km離れた養老院に午後の間に到着できるとムルソーは判断して、雇用主に2日間の休暇を願います。依頼時に雇用主の不満そうな様子を見たムルソーは、“私のせいではないんです”、と他人事のような言葉を口に出してしまい反省します。
養老院に到着したムルソー、彼はまず門衛に会い、それから院長に挨拶します。院長からは母が養老院で過ごせて幸せだったであろうと、と言われます。ムルソーもそう思っていて、そうだからこそ養老院に母を訪ねることもなく、日曜日をふいにする必要もなく、面倒な移動も避けられたと考えています。
その後、ムルソーは院長に案内され、母が眠っている死体置場の小部屋に移動します。院長は彼を独りにしようとその場から離れていきましたが、今度は門衛がやってきます。どうやら柩の蓋を開ける手助けにきたようです。
しかし、ムルソーは彼の好意を断り、母を一目見ることを断ります。門衛は不思議に思い理由を尋ねますが、ムルソーは“理由はありません”と答えます。
その後、門衛と雑談を交わすムルソー、柩の前でミルク・コーヒーやタバコを嗜んだりします。
通夜や埋葬に参加するムルソー、しかし、母と仲の良かった女性を含め、その場に居合わせる人たちを淡々と観察し批評したり、葬儀屋に母親の年齢を尋ねられても彼は正確な年齢を知らなかったために適当に答えたり、どこか、その場の出来事に距離を置いているように、どこか他人事のような感じです。
埋葬を終え、バスで帰ったムルソーがアルジェに到着したときに抱いた感情は喜びでした、そしてたくさん眠りたいという欲望でした__
感想
史上2番目の若さでノーベル文学賞を受賞した著者の代表作、強烈な印象を残す主人公のムルソーが迎えることになる不条理な物語を味わう作品です。
ムルソーには、疲れたからたくさん眠り、お腹がすいたから食事を摂り、異性に欲望を感じたり、生物としての欲求を確認できます。
また、ムルソーには、仕事を終えた帰り道、岸に沿ってゆっくりと歩くことに楽しみを見出したり、空を眺めてその色を愉快に感じたりといった感受性も確認できます。
しかし、それらはあくまで現在の視点でしかないように思います。ここにムルソーの特徴が現れています。
過去への哀愁がないために、母親の死に感ずることもなく、未来への希望も持たないために、結婚といった展望を持つことはありません。ムルソーにとっては、今、どう思っているかが大切なようです。
過去への哀愁がないから、社会の慣習も他人の死の意味も理解できないし、未来への希望も持たないために、神の存在にも意味を見出せません。
それは普通の人にとっては共感できない内容なのかもしれません。そして、それが原因で、ムルソーはとある事件で、事件とは関係のない出来事によって、運命が左右されるという社会の不条理に巻き込まれます。それがこの作品の魅力となっています。
文庫で130ページにも満たない作品ですが、主人公が強烈な印象を残し、他人や社会、生き方とはどのようなものかということを考えさせてくれる作品です。
個人的にはムルソーがしっかりと仕事に取り組んでいることが驚きです。仕事にこそいったい何の意味があるのだろうかと感じるタイプに思います。そういった視点も考えてみると、ムルソーは決して孤独を好んだり、社会にまったくの無関心というわけでもなさそうです。結果、何度も読み直したくなってしまいます。
結局において、ひとが慣れてしまえない考えなんてものはないのだ。
きょう、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かも知れないが、私にはわからない。
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