小説 ~ 破門 ~



破門(はもん)
著者名:黒川博行(くろかわ ひろゆき)
出版社:KADOKAWA
発売日:2014/2(2016/11)
ジャンル:サスペンス




「破門」は、零細個人の建設コンサルタントを営む男性が、腐れ縁のヤクザに半強制的に頼まれる形で、映画の出資金詐欺トラブルに巻き込まれるサスペンス作品です。

著者の黒川博行さんは愛媛県出身の作家で、他の著書に「疫病神」シリーズがあり、本作品はその5作目となります。本作品は2014年に第151回直木賞を受賞しています。

2015年には、BSスカパー!で「破門(疫病神シリーズ)」のタイトルで、北村一輝さんと濱田岳さん主演でドラマ化されており、2017年には、「破門 ふたりのヤクビョーガミ」のタイトルで、佐々木蔵之介さんと関ジャニ∞の横山裕さん主演で映画化されています。


あらすじ


零細個人の建設コンサルタント業を営む30代後半の冴えない男、二宮(にのみや)、会社の表向きの看板は建設工事や解体工事の仲介斡旋ですが、実際には建設現場で妨害活動に取り組むヤクザに対して、建設会社からの依頼を受けて、ヤクザをもって制する前捌き(サバキ)を商売としていました。

二宮は堅気の商売をしているつもりでしたが、父親が神戸にある暴力団の直系団体である「二蝶会(にちょうかい)」の幹部であったことが影響してか、大阪府警から暴力団密接関係者としてマークされている疑いもあり、暴力団排除条例の影響により、その年の売上げに貧していました。


七月半ばのある日の18時過ぎ、二宮が仕事を終えて帰ろうと事務所を出たところ、ビルの前でシルバーのBMWが停まりました。

車のスモークウインドーから覗かせたオールバックに縁なし眼鏡をかけた男は、桑原(くわばら)という二蝶会のヤクザであり、二宮にとっては疫病神の存在です。

過去に二宮は桑原のせいで何度もひどい目にあっています。朝鮮国境警備隊に銃撃されたり、マンションの建設現場で基礎杭に埋められかけたり、と散々です。

軽く悪態をつきながらも桑原に逆らえない二宮は誘われるまま一緒に食事に行きます。そこで桑原から映画製作を手伝うように言われます。

二蝶会が出資した映画を成功させるために、朝鮮への渡航経験があり、映画の知識も豊富な二宮に手伝って欲しいとのことです。

触らぬ神に祟りなし、桑原という疫病神がついてくるこの話に乗り気でない二宮ですが、二蝶会の若頭であると同時に、その三次団体嶋田組の組長であり、二宮が小さいときからお世話になっている嶋田(しまだ)からの直々のお願いということもあって、渋々、その仕事を請けることにします。

早速、その映画のプロデューサーに会いに行く二人、プロデューサーは小清水(こしみず)という名前で、映画製作のほかにVシネをプロデュースしたり、タレント養成学校を経営したりしています。

その場では、原作、出演予定俳優といった映画製作に関することから、好きな映画に関する話題まで挨拶程度の会話を交わして終わります。二人はさらに翌日、脚本を担当するシナリオライターの三宅(みやけ)を尋ねるために京都まで出向き、朝鮮に関する簡単な取材を受けます。


しかし、それから音沙汰のなかった盆明けの8月20日、桑原が突然事務所にやってきたかと思うと、小清水が映画の出資金を持って失踪したと聞かされます__



感想

「疫病神シリーズ」の5作目にあたる本作品、私はシリーズ初見だったのですが、主人公となる二宮と桑原の関係性もすんなりと頭に入り、二人の軽快な会話の掛け合いを存分に楽しめました。

皮肉を含んだ台詞、目上の者や大きな組織に媚びない姿勢はハードボイルドですが、二宮の場合は、ずる賢く抜け目ないしたたかな一面がある一方で、ヘタレな一面も目立つ、いわゆるアンチヒーローな側面もあるキャラクターだと思います。

会話の掛け合いの妙が伴ってストーリーもテンポよく進んでいきます。軽快な会話の印象が強すぎて、ストーリーまで引っ張られるように軽く感じてしまうのは少し残念な面もあります。

装丁カバーの割れたザクロの絵も印象的です。ザクロの花言葉には“愚かしさ”という言葉があり、キリスト教では“再生”の意味を持つということで素敵な表紙になっていると思います。


民事は金、刑事は喧嘩や。






コメント