映画 ~ 女は二度決断する ~




女は二度決断する(おんなはにどけつだんする)
原題:Aus dem Nichts
英題:In the Fade
配給:Pathé Distribution(ビターズ・エンド)
監督:ファティ・アキン(Fatih Akın)
脚本:ファティ・アキン
出演:ダイアン・クルーガー(Diane Krüger)、デニス・モシットー(Denis Moschitto)
公開日: 2017/5(2018/4)
ジャンル:ヒューマン




「女は二度決断する」は街中で突如発生した爆弾事件に家族が巻き込まれ、哀惜に耐える女性が、社会のもたらす不条理に立ち向かう姿を描いたサスペンス映画です。

監督と脚本を担当したのはトルコ系ドイツ人のファティ・アキンさんです。2004年に「愛より強く」でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞、2007年に「そして、私たちは愛に帰る」でカンヌ国際映画祭の脚本賞と観客賞を受賞、そして、2009年に「ソウル・キッチン」でヴェネツィア国際映画祭の審査員特別賞を受賞、と世界三大映画祭での受賞経験といった、様々な作品と受賞暦を持つ映画監督です。

主人公に「ナショナル・トレジャー」、「マンデラの名もなき看守」等のダイアン・クルーガーさん、2017年に本作品で第70回カンヌ国際映画祭の女優賞を受賞されています。

主人公夫妻の友人であり弁護士の役を、イタリア系の父とトルコ系の母をもつデニス・モシットーさんが務めています。デニス・モシットーさんは、「暗い日曜日」等の出演暦があり、その作品で1999年にドイツ映画賞最優秀主演男優賞にノミネートさています。

本作品は2018年に、第75回ゴールデングローブ賞で最優秀外国語映画賞を受賞しています。



あらすじ

[プロローグ]

刑務所の廊下、ある部屋の前に複数の囚人たちが群がり、はやし立てています。

赤い扉から出てきた白いスーツを着た男(ヌーリ・シェケルジ/ヌーマン・アチャル)、看守官に誘導されてたどり着いた大部屋には彼を待っていた数名の人たち、その中から彼のもとへと向かってくるウエディングドレス姿の一人の女性(カティヤ/ダイアン・クルーガー)、二人は刑務所内で式を挙げ、神父の前で永遠の愛を誓います__


[Ⅰ・家族]

横断歩道を渡るカティヤとバイオリンを抱えた彼女の息子(ロッコ/ラファエル・サンタナ)、ある日の午後、カティヤは親友(ビルギット/サミア・シャンクラン)との息抜きのために、コンサルタント会社を経営する夫のところに息子を預けます。

ロッコは、“ビルギットは妊婦だから、いたわらないと”と言う優しい男の子です。

事務所を出て車で出発しようとしたカティヤは、事務所の入口で、真新しい自転車に鍵もかけずに離れようとする若い女性(エダ・メラー/ハンナ・ヒルスドルフ)が目に留まり、盗難に注意するよう呼びかけました。


その後、ビルギットを迎え入れて、スパでリラックスする二人、ビルギットはカティヤのわき腹に描かれた刺青に興味を持ちます。

カティヤはサムライの刺青を新しく入れている途中です。ヌーリが刺青を嫌がっているため、それが最後の刺青となることを宣言しています。

束の間の遊びを楽しんだカティヤ、天気が雨に変わり、雨脚が強まってきた頃、ビルギットと別れて事務所へ帰ろうとします。しかし、付近には複数のパトカーが駐車していました。どうやら通行止めとなっているようです。

カティヤが話を聞いてみると、爆発事件があったとのことです。家族の安否が気になる彼女は、その場にいた警察官の制止を振り切り、ロッコ!ヌージ!と家族の名前を叫びながら事件現場に向かいます。しかし、たどり着いた場所で目にしたのは、焼け焦げた事務所でした。そして、彼女は複数の警察官に取り押さえられてしまいます。

その後、警察官に誘導される形で被害者が集まっている場所に移動したカティヤ、しかし、その場にいた一人の警察の担当者から、二人はここにはいないと、そして、事件現場では一人の男性と一人の子供の遺体が発見されたとの非情な報告を受けます。

カティヤはその場で崩れ落ち、泣き叫びます。


カティヤはそのまま自宅へと帰宅します。土砂降りとなった雨の中、彼女と警察官数名が家の中に入り、DNA鑑定のため、洗面台にあった夫と息子の歯ブラシを彼女は警察官に渡します。

リビングに移動したカティヤ、家には家族や友人が次々と集まってきます。

窓際で呆然とタバコをふかしていたカティヤ、そんな彼女の前に再び警察官が現れて、犠牲者は夫と息子であったと正式に告げられます。

カティヤはそのまま捜査協力を警察から依頼されます。彼女の両親は呆然としている彼女を見て、後日にするように警察官に依頼しますが、カティヤ自身が捜査に協力することを望みました。

捜査担当者の警察官(レーツ/ヘニング・ペカー)は、始めに、ご主人はイスラム教徒ですか?との質問をカティヤに投げかけます。彼女は無信教だと答えます。

クルド人なのに?と続けて質問が飛びます、さらに政治活動は?、敵は?と続きます。

それらの問いを否定するカティヤ、レーツは夫の薬物の前科を把握していて、裏社会との抗争で犠牲になったのではと疑っているようです。

爆発は夫の会社の前で発生したとレーツはカティヤに伝えます。

すると、カティヤは子供を預けたときに会社の前に怪しい女性がいたことを思い出して、そのことをレーツに伝えます。

事情聴取の後、カティヤは夫と自身の友人である弁護士(ダニーロ・ローヴァ/デニス・モシット)のもとを訪ねます。亡き夫と息子を奪った加害者に復讐するために__



感想


家族を奪われた一人の女性の喪失感や絶望感を描いた作品です。

主演のダイアン・クルーガーさんの喪失感が漂う演技は素晴らしいものが多く、特に、ウルリッヒ・トゥクールさんが演じた容疑者の父親役との二人のやり取りのシーンはとても印象的でした。

大きな3つの章立てで構成されている本作品、3章のテーマが「海」と見た瞬間は違和感を抱きましたが、この作品全体を通して、雨、スパ、バスタブの湯船、そして涙と、家族を想いだす海、記憶に残る場面場面には常に「水」が関わっていました。

そして、家族とのホームビデオのラジコン作成や、海でのささやかなやり取り、そこでの子供の一言といった演出、ドイツの映画ですが、主人公の未完成の刺青が“サムライ”であったり、ある場所で買ったタバコの銘柄が“アメリカン・スピリット”であったり、様々な場面が含む意味が印象的で、好きになれるシーンが多い映画でした。

なお、原題を直訳すると「何もないところから」のようです。原題がどうこうというよりも、展開が予想されてしまう邦画のタイトルは個人的には気に入りません。

また、インド映画の「女神は二度微笑む」(原題「物語」)と比較して、家族が自分の前から消えた女性主人公、を始めとした、いくつかの共通点がこの作品にあったのですが、邦題が若干似ているのは偶然なのか、狙ったのか、少し気になります。





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