映画 ~ 百円の恋 ~




百円の恋(ひゃくえんのこい)
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
監督:武正晴(たけ まさはる)
脚本:足立紳(あだち しん)
出演:安藤サクラ、新井浩文
公開日:2014/12
ジャンル:ヒューマン






「百円の恋」は引きこもりのアラサーニートが、実家を追い出される形で百円ショップで働き始め、そこでの出会いをきっかけに、無気力で避けていた物事と向き合い、成長していく様子を描いた映画です。

監督は愛知県出身で、「69 sixty nine」や「嫌われ松子の一生」で助監督を務め、「嘘八百」等の監督作品をもつ武正晴さんです。

脚本は「嘘八百」や「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」、そして映画だけでなくNHKのテレビドラマ「佐知とマユ」でも脚本を務めた鳥取県出身の足立紳さんです。本作品で2016年に第39回日本アカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞されています。

主演は映画「DESTINY 鎌倉ものがたり」や「万引き家族」を始めとして数多くの出演暦を持つ安藤サクラさんです。本作品で日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞を受賞されています。

主人公が通う100円ショップの道中にあるボクシングジムで見かけたボクサーの役を、「青い春」や「寄生獣 完結編」等、こちらも数多くの出演作を持つ新井浩文さんが演じています。

本作品は第88回アカデミー外国語映画賞の日本代表にも選ばれています。



あらすじ


実家でタバコを咥えながらボクシングのテレビゲームで遊んでいる32歳の女(斎藤一子/さいとう いちこ/安藤サクラ)、合間にはメッツコーラを口に流し込みます。

実家は街の弁当屋「うまかべん」を切り盛りしています。母親(稲川実代子)を中心に、結婚生活がうまくいかず息子を連れて実家に戻ってきた一子の妹の二三子(ふみこ/早織)が店を手伝っています。父親(伊藤洋三郎)はあまり役に立たないようです。

自堕落な一子は、二三子の息子の太郎(若林瑠海)と一緒にゲームで遊んでいます。子供にも容赦ない一子は大人気なく勝利し、そんなことだから学校でいじめられるんだと心無い言葉を太郎に向けます。

ゲームに飽きた一子は、階下に降りてきて、弁当の惣菜をつまみ食いします。“まずい、こんなんだから旦那に逃げられる”と余計な一言を妹に放つ一子、“あんたは何にも作れないでしょう”、と母親がとめます。

そのまま一子は店を出て、自転車に乗って夜道をふらふらと出かけます。


着いた先は、「お客様もお店もやればできる百円生活!!」がキャッチコピーで、店内には電波ソングが流れている百円均一ショップです。

買い物カゴにポテトチップや柿ピ、菓子パン、コーヒー牛乳に発泡酒と次々と入れていく一子、雑誌を少し立ち読みして買い物を済ませます。

帰り道、一子の目にボクシングジムが映ります。そこに、休憩のために一人のボクサー(狩野祐二/新井浩文)が外に出てきて、タバコを咥えます。

ボクサーと目が合った一子は、その場から立ち去ります。


翌日、また日常の光景、一子は部屋で眠ったまま、太郎が起こしに行きます。

歯周病があり歯医者の予約のある一子でしたが、それをすっぽかそうとします。一子のだらけっぷりについに我慢ができなくなった二三子、朝から姉妹で大喧嘩が始まります。

父親はおろおろとするだけ、母親が必死に喧嘩をとめようとし、最後には二人とも出ていけと悲痛な叫びをあげます。

一子はその母の様子を見て、私が出て行くと宣言し、寝巻き姿のまま、喧嘩で汚れた姿のまま街に飛び出していきます。

そのまま不動産の前で物色していた一子、しかし、店員に声をかけられると、その場を立ち去ってしまいます。

いったん家に戻ってきた一子、我が子に甘い母親から二三子が離婚で疲れているからといって、一子にまとまったお金を渡します。一子は荷物をまとめて家を出て行きます。

アパートで一人暮らしを始めた一子、通っていた百均ショップで深夜のアルバイトを始めようとします。

バイトの面接に応対した店長(宇野祥平)は“募金いつもありがとうございます”と一子のことを覚えていたようです。また、一子の履歴書を見て、高校生のときから「うまかべん」で揚げ弁当とマカロニサラダをいつも買っていたと言います。

“深夜でもいいですか?”と店長は尋ね、“大丈夫です”と一子は答えます。通常は22時から朝の8時までのところ、女の人だから6時まででいいと店長は言います。店長は優しい人のようですが、心身ともに疲れているようです。

面接の帰り、またボクシングジムの前で立ち止まる一子、ジムには祐二がいて、その様子を見ています。


後日、一子のバイトがスタートします。あるとき、一子のバイト中に祐二が客として来店します__



感想


自堕落実家寄生ニートのアラサーが主人公です。

「勝手にふるえてろ」の20代OL、「オー・ルーシー!」の40代OLの二人の主人公は、ハリのないルーチンワークに閉塞感こそ抱きつつも、プライドが感じられました。しかし、こちらの主人公である一子は、完全に劣等感を抱き、あらゆることを諦める寸前の状態からスタートしているように見えます。

そして、そんな中で唯一、一子が興味を持ったのがボクシングジムにいたボクサーでした。しかし、このボクサーも決して魅力的なヒーローという存在ではありません。

この作品に登場する人物は、馴れ馴れしすぎる小者の40代先輩バイトや、廃棄物を拝借しようとする元店員といったクセの強い人が多かったり、まともそうな人たちも、ブラックな労働条件に疲弊していたり、家庭内にトラブルを抱え込んでいたりと、順風満帆でない人たちばかりです。

そういった面で、この作品は決してすべてが美談でまとまっているわけではなく、それがこの作品の大きな魅力になっていると思います。


そして何よりも主演の安藤サクラさんの魅力が素晴らしい作品です。主人公が成長する話は数多くありますが、内面だけではなく、外見も成長していく姿がはっきりとわかります。その様相だけでも圧倒されます。

生命保険会社が100円の価値もつけないような登場人物が数多く登場する映画ですが、一子の母親が一子にまとまったお金を渡したように、人の価値は各個人が自分の価値観で決めるものです。この映画で描かれた恋の価格と安藤サクラさんの演技を含めた作品の価値をたくさんの人に決めていただければなと思える作品です。


百円♪ 百円♪ ひゃくえんせーかつ♪
安い♪ 安い♪ なんでもやすい♪



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