少女地獄(しょうじょじごく)
著者名:夢野久作(ゆめの きゅうさく)
出版社:KADOKAWA
発売日:1976/11(1936)
ジャンル:ヒューマン
「少女地獄」は夢野久作さんの短編小説集であり、様々な女性を中心に、人間の内面や男女の駆引き、真実と虚構が織り重なった怪奇話を綴った作品です。
本書は「少女地獄」、「童貞」、「けむりを吐かぬ煙突」、「女坑主」の4編で収録されています。
ただし、「少女地獄」は「何でも無い」、「殺人リレー」、「火星の女」と3編の書簡形式の作品で構成されているため、計6編の短編集ともいえます。
著者の夢野久作さんは福岡県出身の作家で、他の著書に日本の推理小説・異端文学史上における三大奇書としてあげられる作品の一つである「ドグラ・マグラ」等があります。
本作品は「夢野久作の少女地獄」として1977年に映画化もされています。
あらすじ
これは、横浜市で耳鼻科を営む臼井(うすい)利平から、K大耳鼻科で助教授の要職にいる白鷹秀麿(しらたか ひでまろ)に宛てた手紙です。
そこには姫草ユリ子という女性が自殺したということが書かれていました。
事の発端は、この手紙を書くきっかけとなった日の午後一時、突然の来訪者が臼井を訪ねてきたことによるものでした。
脳膜炎患者の手術を終え疲れきっていた臼井、彼が外来患者の途絶えた診察室の長椅子で横になっていたとき、その男はやってきました。
四十四・五くらいの和製シャアロック・ホルムズといった外見をした男、その男は胸の内ポケットから1枚のカード型の紙片を取り出して臼井の方に押し遣ります。
その紙片には「姫草ユリ子の行方をご存知ですか」と書かれていました。
彼女は黙って出て行ったために知らないと臼井は突然の来訪者に答えます。答えながらも、その来訪者は自分を脅迫するためにやってきたのでは、と警戒します。
来訪者は、先ほどと同じく内ポケットに手を突っ込み、今度は白い封筒を取り出して臼井の前に差し出します。
それは姫草ユリ子が書いた、白鷹と臼井に宛てた遺書でした。そこには自身の言葉が例え真実でもウソとなっていく世の中に何の生き甲斐があるのか、といった怨みつらみも記載されていました。
臼井は白鷹宛の手紙でこう書き連ねています。彼女はその清浄無垢な容姿とは裏腹に、妄想と虚構で自分自身を、そして周囲の人たちを巻き込み、地獄へと突き落とす怪腕があると__
これは臼井の前に現れた姫草ユリ子という不思議な少女を綴った物語です__
(何んでも無い)
感想
大正から昭和初期に数多くの作品を残した夢野久作さん、さすがに時代が異なるため読みにくい箇所が多少ありましたが、半世紀をゆうに超えている時代の差異を考えれば、比較的読みやすい作品だと思えることに驚きます。
怪奇小説として怪しげな雰囲気を帯びつつ、どこか共感し、どこか惹かれてしまう登場人物の存在や、決して幸せとは思えないが、後味が悪いとも思えない展開や結末、現実と空想が違和感無く入り混じった内容、書かれた時代を忘れて読書を楽しませてくれます。
異常なまでに虚構で自身と周囲を塗り固めようとする「何んでも無い」の登場人物である姫草ユリ子、彼女自身の登場人物としての不思議な魅力を感じることはもちろん、物語の構成にも考えてしまうことがたくさんあります。
どうして本作品は姫草ユリ子の主観から描いた書簡形式ではなく、臼杵先生の書簡形式で描いたのか、曼陀羅先生が臼杵先生の前で振舞った態度は臼杵先生が白鷹先生の前で振舞った態度とどこが似ていて、どこが異なっているのか、等、考えれば考えるほど絶妙に描かれているようで不思議な心境となります。
再読したいとは思えない一方で、時が経ったときに読んだら違う感想を抱くのだろうなと思います。
ですから彼女は実に、何でもない事に苦しんで、何でもない事に死んで行ったのです。
彼女を生かしたのは空想です。彼女を殺したのも空想です。
ただそれだけです。
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