父と子の旅路(ちちとこのたびじ)
著者名:小杉健治(こすぎ けんじ)
出版社:双葉社
発売日:2003/1(2005/6)
ジャンル:ドラマ、サスペンス
「父と子の旅路」は、妻に逃げられ、ガンも宣告され、果ては一家惨殺の容疑で死刑判決を受けた一人の男性、その男性が頑なに守ろうとしたもの、冤罪の疑いもある中、その事件で両親を殺害された子が成長し弁護士として事件を担当し全貌を明らかにしようとするサスペンス作品です。
著者の小杉健治さんは東京都出身の作家で、他の著書に1998年に第98回直木賞候補作となった「絆」や1999年に第11回吉川英治文学新人賞を受賞した「土俵を走る殺意」等があります。
本作品は2005年にTBS系列で橋爪功さん、中村俊介さん、宮本真希さんが主演でドラマ化され、さらに2018年にも「家族の旅路 家族を殺された男と殺した男」のタイトルで、遠藤憲一さん、滝沢秀明さん、谷村美月さんが主演でフジテレビ系列でドラマ化されています。
あらすじ
肝臓癌で余命僅かとなった母(河村あかね)の見舞いのために病院を訪ねる娘(河村礼菜/れいな)、あかねは水商売で培われたコミュニケーション能力で病室内でも会話の中心にいます。
一方の礼菜は昨年の暮れにリストラの影響で広告代理店を辞めて就職活動中でした。
礼菜が高校生のころまでは仲の良くなかった二人でしたが、礼菜が大学3年生のとき、母が子宮癌を発症したことをきっかけに、二人の関係は緩やかに改善してきました。
子宮癌の手術は成功しました。しかし、二ヶ月前、礼菜が帰宅したときに母が部屋の隅でうずくまっているのを発見し、救急車を呼び、病院で肝臓に癌が転移していること、すでに手の施しようがないことを医者から宣告されたのです。
礼菜の父であり、あかねの夫である男(河村真二/しんじ)は極道の人間であり、どうしようもない屑男であり、やくざに殺されてすでにこの世にはいません。
礼菜は母がベッドの上でたまに寂しそうな顔をして窓の外を見ていることに気づいていました。
身動きの取れない母の代わりに身辺整理の手伝いをしていた礼菜、あるとき、住所録を保管してある段ボール箱から古びた新聞記事を見つけます。
それは尋ね人欄を切り抜いた記事であり、そこには礼菜の祖母にあたる、あかねの母が危篤状態のため、すぐに連絡をするようにと、あかねの父である花木重彦(はなき しげひこ)からのメッセージでした。
礼菜の母は17歳のときに家出して30年以上も絶縁の状態です。
礼菜は母の心残りがこのことだと考え、最後に和解させたいと強く思います。
二日後、礼菜は母であるあかねの父親のもとを尋ねます。しかし、礼菜にとって祖父である重彦の対応は想像以上に冷たいものでした。祖父にとって、母のあかねは既にいないものとしているようです。
食い下がる礼菜は母が最後に“誰か”に会いたがっていることを訴えます。
すると、祖父から想像していなかった話を聞かされます。
その“誰か”とはきっと自分が捨てた子供であろうということ、母は結婚してすぐ生まれた子と男を捨てて他の男、つまり礼菜の父と駆け落ちしたということを。
礼菜は自分に父違いの兄弟がいたことに驚きます。その兄弟の行方を知りたいと言う礼菜、しかし、祖父から返ってきた言葉は更に予想外のものでした。
その男の子の行方はわからない、ただ、父親は一家三人を殺した罪で死刑囚として服役されていると__
感想
死刑冤罪といった社会テーマや父が秘密にした謎といったサスペンス要素もありますが、この作品で何よりも印象に残ったのが家族の愛を感じる強い絆と意志です。
何を犠牲にしても守りたかったものがあるために死刑囚となった父親や、両親を惨殺された事件の容疑者を弁護することになる被害者の子供、余命僅かの母の願いを叶えようとする娘、その他、運命に身を委ねて諦めるわけではなく、信念をもって自身の旅路を歩み続けようとする登場人物の人間ドラマに感涙を覚えます。
残念なのは、重厚な人間ドラマとは異なり、ご都合主義で薄く感じてしまう作品の展開です。
どうして加害者が子供に手をかけなかったのか、病気の状態や執行のタイミング等、強引に話の流れ、起伏が用意されていると感じてしまったことが残念でした。
通常であればそんな野暮なことを思わなかったと思います。ただ、人間ドラマという点で非常に素晴らしい作品であったが故に、細かい点でも納得できる作品であったらとう思いがあります。
その夜、妻の匂いのまったく消えたアパートの部屋で、光男を抱きしめて運命を呪った。
涙が顔に当たり、くすぐったかったのか、光男が笑った。
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