小説 ~ ベルカ、吠えないのか? ~



ベルカ、吠えないのか?(べるか、ほえないのか?)
著者名:古川日出男(ふるかわ ひでお)
出版社:文藝春秋
発売日:2005/4(2008/5)
ジャンル:ドラマ、戦争




「ベルカ、吠えないのか?」は、20世紀中頃から終わりまでの戦争の世紀を、国境や思想に捉われることなく世界中を駆け抜ける犬たちを中心にして描いた作品です。

著者の古川日出男さんは福島県出身の作家で、他の著書に2002年に第55回日本推理作家協会賞を受賞した「アラビアの夜の種族」や2015年に第37回野間文芸新人賞を受賞した「女たち三百人の裏切りの書」等があります。

本作品は2005年に第133回直木三十五賞候補作となっています。

また、著者はBunkamura25周年記念公演として開催された舞台「冬眠する熊に添い寝してごらん」の戯曲を書く劇作家としても活躍されています。

フィクションである一方で、冷戦や、ベルカとストレルカ といった旧ソ連の宇宙犬の話といった、近代史の歴史、時代背景を踏まえた物語が展開されています。


あらすじ


199X年ロシア、気温が零下20度を上回ることがなく、近場の村からは徒歩5時間以上もかかる白樺の木々の中にある一軒の民家、そこに暮らしているのは一人の老人、車の後輪が川にはまり込んだたため助けを呼ぼうと若者が訪ねてきます。

突然の来訪者にウォッカをふるまう老人、乾杯する二人、どうやってこんな辺境で暮らしているのかの雑談を交わしながら、酒のつまみを忘れたといって立ち上がる老人、しかしそんな老人に対して、若者は拳銃を取り出し、老人を“大主教”と呼びながら銃をつきつけます。

機転を利かして難なく相手を制する大主教と呼ばれた老人、隠居生活が嗅ぎつかれたことでその場を離れようとします。

荷物は地球儀の中に安置してあった犬の頭骨、中型犬の祖国ソビエトの英雄であった犬の頭骨だけです。

大主教と呼ばれた男はそれを持って出かけ、過去の因縁に決着をつけようとします。

かって所属した組織の生き残りの仲間と、偶然拾った10代前半の日本人のやくざの娘とともに__



1943年、太平洋の北側、アリューシャン列島において日本軍に占領された島、キスカ島、日本軍はアメリカの領土であるこの島を侵略し占領していましたが、戦略上たいして意味をもたないこの島を放棄し全軍撤退することが決定していました。

巡洋艦と駆逐艦を導入しての撤退作戦、守備隊の5,200名余りが無事に島を離れます。

しかし、撤収できたのは人間だけでした。その島には四頭の軍用犬が存在していたのです。

戦争の世紀である二十世紀において、軍用犬もまた各地で活躍していましたが、この四頭は日本軍に見捨てられてしまったのです。

四頭の名前はそれぞれ、北海道犬(アイヌ犬)の北、ジャーマンシェパードの正勇と勝、そして同じくシェパードでありながらアメリカ軍の捕虜のような扱いで飼われていたエクスプロージョン、この四頭を始祖として、国境や国籍を超えた戦争の世紀を駆け抜ける犬たちの物語が紡がれます__



感想


犬を中心とした現代史という異色の作品です。

199X年の謎の老人と日本のやくざの娘の視点と、1943年から199X年までの何頭もの犬たちの視点の大きく二つの視点が交互に展開されていきます。

人間の密接なパートナーでありながら人間の都合、争いの都合で翻弄される犬たち(たまに牙をむく犬もいましたが)の宿命や運命が何ともいえない哀愁や寂寥を引き起こします。

犬たちにの血筋は物語上確かに受け継がれているのですが、そこには決して大きな野望があるわけではありません。先帝の無念をはらしたり、俺の屍を超えていくわけではなく、ただただ人間に寄り添いながらも時には人間を傷つけ、他の犬を傷つけ、自分自身を傷つけたりもします。

犬たちには大儀がないことがこの物語の肝ではあるのですが、その大儀がないために途中途中で話を冗長に感じてしまい読み進める意欲が低下した点が少し残念でした。


一方で人間側も様々な人々が国や人種を問わず登場します。

個人的にはストレイカと犬の名前を名づけられた日本のやくざの娘と、中南米で活躍する怪犬仮面
の二人がとても印象的です。


犬を中心とした作品のためか文体も独特のように感じられました。大衆向けというよりは純文学に近い印象を受けました。

恐らく戦争の歴史についてもう少しでも詳しければもっと楽しく深く読み進められたと思います。


うぉん、うぉん、うぉん、うぉん




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