映画 ~ 羊の木 ~



羊の木(ひつじのき)
配給:アスミック・エース
監督:吉田大八(よしだ だいはち)
脚本:香川まさひと(かがわ まさひと)
出演:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平
公開日:2018/2
ジャンル:ヒューマン、サスペンス




「羊の木」は、過疎化が進む地方都市における元受刑者の移住プロジェクト、6人の元受刑者を受け入れることになった市役所職員に起きる出来事を描いたヒューマンサスペンス作品です。

監督は「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」、「桐島、部活やめるってよ」、「紙の月」等の鹿児島県出身の吉田大八さん、脚本は「ハサミ男」等を担当したり漫画の原作者でもある香川まさひとさんです。

この二方は「クヒオ大佐」でも監督と脚本をそれぞれ担当されています。

原作は山上たつひこさん、いがらしみきおさんのタッグで雑誌「イブニング」に連載されていた漫画となっています。舞台となっている魚深という地方都市や国の極秘プロジェクトという点は映画と漫画で共通ですが、受け入れ人数が異なったり、主人公が市の職員と市長で異なっていたりと二作の間では違う部分が複数あるようです。



あらすじ


その種子やがて芽吹き タタールの子羊となる
羊にして植物
その血 蜜のように甘く
その肉 魚のように柔らかく
狼のみ それを貪る

「東タタール旅行記」より


とある市役所の一室、月末(つきすえ/錦戸亮)と上司から呼ばれた男が6人の男女の出迎えをして欲しいと命令されます。

月末が移動した先は北陸新幹線の駅「魚深市(うおぶかし)」、月末が言うには魚深市は「人もいいし、魚もうまい」所のようです。

その新幹線の駅で一人目に出迎えたのは福本という男(水澤紳吾)、月末が世間話でどこから来たかを尋ねても回答をはぐらかし、中華レストランで食事をした際にはラーメンやチャーハンにがっつきます。

二人目は空港、パフェを食べている太田という女(優香)、服がかびくさくないかを気にしています。

三人目はローカル鉄道で栗本さんという女性(市川実日子)を出迎え、買い物を手伝います。

四人目に月末が向かった先は高い塀が聳え立つ建屋、そして重厚な柵から出てくる大野という左目に傷がある年配の男性(田中泯)です。

月末が大野を助手席に乗せて運転中に後ろから車がついてきます。停車すると堅気に見えない男が3人車から出てきます。その中の男が「大野さん、ご無沙汰です。おやじが待っています。」と挨拶をします。「もう縁を切った」という大野、強引に連れていこうとする男の手首をひねって返り討ちにします。


ここにきて自分の置かれている状況をうすうすと感じ始めた月末、彼が迎え入れている人たちは刑務所から出所した人たちでした。課長に最初から伝えておいてくださいと不満を伝える月末、そして課長から説明を受けます。

今回の案件は市を身元引受人として、仮出所者に10年間魚沼市で過ごしてもらうという市長直轄の国家プロジェクトということでした。

個人情報の観点からそのプロジェクトの存在を知っているのは課長と月末だけです。


プロジェクトの存在を知った月末が迎えにいった5人目は杉山という男(北村一輝)であり、会った瞬間から月末をパシリに使おうとするような男でした。

最後の6人目は宮越という男(松田龍平)で、これまでの5人とは異なり唯一自分から積極的に話しかけてくれます。
月末は魚がおいしそうですねと言う宮越と一緒に、かわはぎの刺身付の定食を二人で並んで食べます。

そして、自分がなぜ刑務所に入ったかを宮越は話し出します。喧嘩で気づいたら相手を過剰防衛で殺してしまったという宮越、月末はなんで急にそんなことを話してくれたのかを尋ねます。「なんででしょうかね」と宮越は答えます。


また、文(アヤ)という女性(木村文乃)も千葉の病院を辞めて魚深に戻ってきます。
文は月末と幼馴染であり、月末は文に好意を持っているようです。

月末は須藤という昔からの友人を加えて文と一緒に昔やっていたバンド活動を再開し始めます。

ある夜、市の祭りのポスター貼りをしている月末、突然パトカーがサイレンを鳴らして走り去ります。
港のほうで釣りをしていた人が遺体で発見されたようです。長閑な市では珍しい出来事のようです。

翌日、市役所の後輩が課長のPCを覗き見てプロジェクトの内容を知ったと月末に話しかけてきました。

「のろろ祭」という地元のお祭りが控えている中、元受刑者を受け入れた田舎の地方都市に不穏な空気が流れていきます__



感想


元受刑者が更生しているのか、元受刑者を受け入れられのか、というテーマと地方都市の過疎化というテーマ、二つの社会性のあるテーマを題材としたサスペンスです。

舞台は北陸新幹線の駅や空港があるということで、地方都市といってもそこまで田舎というわけではないのですが、地元特有の変わったお祭りがあったり、どこか閉鎖的な空気を感じる場面もあります。

主人公に、彼が想いを寄せる女性、新しく迎え入れた6人、もう少し人数を絞る選択もあったと思いますが、それぞれの個性と関連、物語がテーマに沿ってうまくまとめられていると感じました。

もちろん、登場人物を絞って、より一人ひとりに多くのスポットを当てることもできたと思います。しかし、この作品では、罪を償って改めて生きていこうとする人や、前科者でも関係ないと信じようとする人、また、何も変われない人と様々な意見が展開されている部分が私には合いました。

残念だったのは結局私の問題となるのですが、配役で何となくその後の展開が予想できてしまうことです。また、錦戸亮さんのクールな雰囲気とイケメンっぷりは、どこにでもいそうな普通の市役所職員として観るには少しつらい部分もありました。

タイトルに関して、オープニングで説明のあった「東タタール旅行記」の一説と映画のシーンを考慮すると“生まれ変わり”を連想したのですが、“狼”は何を連想するかが難しいなという感想です。


だいたい
わかったから付き合うんじゃなくて
わかりたいから付き合うんじゃないの

でも僕も僕以外にはなれないんだよ





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