小説 ~ 土漠の花 ~



土漠の花(どばくのはな)
著者名: 月村了衛(つきむら りょうえ)
出版社: 幻冬舎
発売日: 2014/9(2016/8)
ジャンル:サスペンス、冒険




「土漠の花」は月村了衛さん著作、ソマリアの国境付近で活動中の自衛隊が現地の民族紛争に巻き込まれたことによる生死を賭けた戦闘と脱出劇を描いたサスペンス小説です。

著者の月村了衛さんは小説家と活動する前は脚本家としても活動しており、1988年のテレビアニメ「ミスター味っ子」で脚本家としてデビューしています。

2010年に「機能警察」で本格的に小説デビューし、2013年に「機能警察 暗黒市場」で第34回吉川英治文学新人賞、2015年に「コルトM1851残月」で第17回大藪春彦賞、そして2015年に本作品で第68回日本推理作家協会賞を受賞しています。



あらすじ


東アフリカ地方、エチオピア、ジブチ、ソマリアの3カ国の国境地帯で発生したヘリの墜落事件、その捜索救助のため陸上自衛隊第一空挺団の精鋭12人が任務にあたります。

潰れた機体と乗務員の遺体を確認した一団は、難航が予想される遺体搬出作業に翌早朝から取り組むため、その国境地帯で野営をすることにします。

捜索救助隊の隊長である吉松3尉の指揮系統のもと、友永芳彦(ともながよしひこ)曹長も野営の準備をし、紛争地帯の国境ということで周囲の警戒をしながら、翌朝からの救助活動を計画しています。

建設的な意見を述べる信頼のおける部下がいる一方で、犠牲者に対して冷酷ともとれる意見を述べる新開(しんかい)という隊員がいます。

新開は友永と同じ曹長の階級であり、年齢も同じ35歳です。友永は工科学校をトップに近い成績で卒業している新開に対する僻みのような感情を持ち、また、新開の無機質で冷酷な言動に対して反感を覚えていました。


遺体搬出作業の手順を検討しているうちに日付が変わった深夜0時11分、友永達は闇の奥から複数の足音が接近してくる音に気づきます。

立哨作業で周囲を警戒していた隊員が、近づいてくる人物を静止します。そこには3人の黒人女性がいました。

中央にいた女性は言います、自分はビヨール・カダンという氏族のスルタン(氏族長)の娘アスキラ・エルミであると、そして、ワーズデーンという氏族が街を襲撃してきて、そこから逃げてきたということを。

隊員たちは自爆テロの可能性も考慮し、銃を構えながらもアスキラの話に聞き入っていました。

そんななか、新開曹長が吉松隊長に、自分たちの任務は遭難機の捜索救助であり、他国の紛争に介入することは許されていないはずです、と進言します。

友永はその新開の情を欠いた言いざまに反感を覚えます。

ただ、吉松隊長ははっきりとアスキラ達に向かって、避難民として保護します、と伝えます。

安堵の色が顔に浮かぶ三人の女性達、しかし吉松隊長が改めて語りかけたそのとき、突然四方から銃声が轟き、隊員二人が鮮血を噴いて倒れ、女性たちが悲鳴を上げます。


それは、海外に派遣された自衛隊が民族紛争に巻き込まれたことによって直面した生死を賭けたギリギリの戦闘と脱出劇の始まりの合図でした__



感想


生死を賭けた戦闘、絶望的な状況からの脱出劇と、スリリングな冒険小説になっています。

SFやファンタジーではなく、自衛隊を主人公に世界で最も危険な一つといわれる東アフリカのソマリア近辺を舞台にしたことで冒険小説としてのスリルを高めていることが本書の特徴です。

あくまで小説の話ですが、政治のニュースで取り上げられることのある憲法9条と自衛隊の問題に関して、また、アフリカと先進国と呼ばれる国との関係といった社会問題に関して考えさせられることもあります。

そういった現実を想起させるシリアスな情勢とは異なり、サバイバルの展開としては少年漫画のような王道を進んでいる印象を受けました。

自衛隊という組織、その中で起こる人間ドラマ、自分を犠牲にしてでも仲間を守ろうとすること、そして次々と襲い掛かる危機を切り抜けていく、読んでいてそれはもちろんわくわくしますし、ページをめくるスピードも速くなっていくのですが、一方でせっかくSFやファンタジーとは異なる舞台であるにもかかわらず、どこかご都合主義を感じてしまう点は残念でした。

しかし、そういった部分を差し引いても、取り扱う題材と映画のようなスピード感と緊張感が襲ってくる展開は読み応えがあり、個人的にお勧めできる小説です。


『土漠では夜明けを待つ勇気のある者だけが明日を迎える』

ソマリアの格言です。
私達はそうした古い教えに従って生きてきました。
私も最後までそうありたいと思います。






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