小説 ~ 夜が来ると ~




夜が来ると(よるがくると)
原題: THE NIGHT GUEST
著者名: フィオナ・マクファーレン(FIONA McFARLANE)
訳者: 北田絵里子
出版社: 早川書房
発売日: 2015/6 (原題発表 2013)
ジャンル:サスペンス





「夜が来ると」はフィオナ・マクファーレンさん著書、アレックスという一人の女性の誘拐事件、パリ警視庁の警部たちがその事件を追うことで明らかになっていく謎に関わっていく様子を描いたフランスのサスペンス、ミステリー小説です。

著者のフィオナ・マクファーレンさんはオーストラリアのシドニー出身であり、2013年に発表した本作品はオーストラリアで最も権威がある文学賞であるマイルズ・フランクリン賞の最終候補に選ばれたほか、オーストラリアのいくつかの著名な文学賞を受賞しています。



あらすじ


オーストラリアの海辺でひとり暮らす75歳のルース、ある朝4時に目覚めると、大型動物の荒い息遣いや呼吸の振動、食べ物のにおいを嗅いでいるような音が聞こえてきます。ルースは家にトラがいるように感じます。

ルースが飼っている猫も、その気配に気づいた瞬間ベッドから跳び下り、廊下へと逃げだし、キッチンをとおり裏口のドアから出ていきます。居間のほうからはトラの遠吠えが聞こえてきます。

恐怖の中、ベッド脇のテーブルの電話をとるルースは、ニュージランドに住んでいる長男のジェフリーを呼び出す短縮ボタンを押します。

電話越しに「トラが家にいる」と主張するルースに対して、「猫か夢のどっちか」だと指摘するジェフリー、もちろんルース自身もトラなんているはずがないこと思っていましたが、それを夢だと思うことはできないし、ただの猫ではない、猫よりずっと大きいトラがいると思っています。

「行って調べてみるかい?」とルースに尋ねるジェフリー、疲れを感じさせるその問いかけに対して、ルースは「大丈夫、悪かった、もう寝て頂戴」と答えて電話を切ります。

ジェフリーに見限られたこともあり、ルースは勇気を出してベッドから抜け出し、寝室のドアのそばまで向かいます。

五月に似つかわしくない蒸し暑さを感じながらルースは「ねえ?」と部屋の外にいるであろうトラに呼びかけます。一方で、もしトラに食べられたらニュースになるだろうかといったことも考えています。

静けさを取り戻した家の中、ルースはベッドに引き返し、トラはもう眠ってしまったと思うことにしてそのまま自身も眠ってしまいます。


翌日の昼、居間に向かったルースが見た光景はいつもと変わらない位置にある家具と、窓から見えるいつもと変わらない前庭でした。

夜中に経験した感覚がまだ消えていない中、ルースが椅子に座って紅茶を飲んでいたところ、大柄な女がまっすぐにルースの家を目指して近づいてくるのが見えました。

ルースは庭を突っ切ってやって来たその来客に応対しようとします。

聞けば、その女はフリーダ・ヤングと名を名乗り、自治体から派遣されてきたヘルパーだと自己紹介します。

トラにヘルパーという連日の来訪者、高齢で一人で暮らしていたルースにある転機が訪れようとしています__



感想

高齢の女性を主人公として三人称の視点で描かれたオーストラリアの作品です。

三人称視点ですが、あくまで主人公が考えていること、主人公が感じたこと、主人公がやり取りしたこと、つまり主人公の視点を中心に内容が語られていきます。

年齢を重ねても自立している自分と、ヘルパーの存在を受け入れる自分、理想と現実、過去と現在と未来の狭間で揺れ動いている自分、思春期とは異なる高齢期の視点で描かれていることに特徴があり、虎が突然家に現れるというあり得ない出来事を絡ませることで、ファンタジーではなく、リアルな形で真実と虚構が混在している物語になっていると思いました。


海外文学のためか、それとも、一人称で書けば自然に受け入れらそうな内容が三人称視点で描かれているためか、どちらかは判断しにくかったのですが、途中途中で少し読みづらいなと思う箇所が数点ありました。

また、緩やかに物語が進行していく様子は、起伏が少ないということであり、その点は読んでいて退屈に思うこともあります。

しかし、逆に考えると、緩やかな進行とは、“老い”というものが誰にも緩やかに忍び寄ってくるものであると感じさせてくれるものであり、また、ヘルパーと少しずつ心の距離を近づけていくことを感じさせてくれるものでもあり、この作品の恐怖と穏和な部分を惹きたてているものでもあります。


高齢化社会の問題は決して日本だけの問題ではなく、ひょっとしたら日本でもこういった作品が今後増えていくのかもしれません。





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