勝手にふるえてろ(かってにふるえてろ)
配給:ファントム・フィルム
監督:大九明子(おおく あきこ)
脚本:大九明子
出演:松岡茉優、北村匠海、渡辺大知
公開日:2017/12
ジャンル:恋愛
「勝手にふるえてろ」は、脳内妄想や絶滅動物が趣味で24年間恋人のいないオタク系OLが、中学時代から10年間片思い中の男性と初めて告白してくれた好みのタイプではない男性との間で苦悶する恋愛映画です。
監督は「恋するマドリ」、「放課後ロスト」等の神奈川県出身の大九明子さんです。
原作は綿矢りささんの小説です。
主演はNHK連続テレビ小説「あまちゃん」やTBSドラマ「コウノドリ」に出演の松岡茉優さんで、本作品が映画初主演となります。
また、主人公に告白する男性を演じたのはロックバンド、黒猫チェルシーのボーカルも務める渡辺大知さんで、黒猫チェルシーの「ベイビーユー」が本作品の主題歌となっています。
あらすじ
思ってること たっくさんあるのに
何一つ言えてないんですよ
喫茶店で呟く一人の女(江藤良香/えとうよしか/松岡茉優)、そばには良香の髪をなでている金髪の女性店員(趣里)がいて、良香は尚、一人で呟き続けます。
「イチ」と呼ぶ男と結婚式を挙げたらどうなるか、「ニ」と呼ぶ男ならどうなるか、妄想した内容を話し続けている良香、「ニ」と一緒のほうが楽にいられると言いますが、それでも最後には次のように発言します。
だけどやっぱりイチが好き
場面変わって、どこかの会社のフロア内、電卓を打ちながら黙々と事務処理をしている良香、お願いしますと言って書類を提出してくる男(二/渡辺大知)、良香は書類を一目見ただけで即座に間違っている部分を指摘します。
「うわホントだ、これじゃ1足す1は1ってことじゃん、はっずー」と良香のデスクの鉛筆を勝手にとり、その場で聞かれてもいない自分が担当するプロジェクトの話をしながら書類を修正している少しうざい存在の「二」に良香は少し苛立ちを覚えているようです。
良香は休憩のタイミングで、同僚の来留美(くるみ/石橋杏奈)相手に愚痴をこぼしたり、恋愛話をしたりします。
そして、休憩室の電気が消されて、良香は妄想の世界に入り込みます。
江藤と書かれた名札をつけた制服姿の良香、それは中学生時代の思い出のようです。
良香は一人席に座って漫画を描いています。
席に一人の男子生徒(イチ/北村匠海)が近づいてきて漫画を手に取ります。
そこに描かれていたキャラクターは「イチ」と同じマッシュルームカットの男でした。
「変な髪形」と「イチ」が呟きます。
就業後のバスの中で隣に座っているおばちゃんや、コンビニの店員、釣りをしているおじちゃん、といたるところで自分のことを会話している良香、帰宅後はヘッドホンをつけて洗い物をしたり、wikipediaで絶滅した動物の一覧を見て楽しんだりしています。
宅配便が届くと中には重たいアンモナイトの化石、絶滅した動物が好きな良香が博物館からの払い下げとして手に入れたものでした。
良香の絶滅した動物のことが好きで趣味としています。
また、人を直接見るのではなく、視野見(しやみ)という視界の端で捉えたり、他人にあだ名をつけたりが得意なようです。
いつもオカリナを吹いているアパートの隣人は「オカリナ」、サスペンダーに口髭を貯えている上司を「フレディ」、来留美が密かに想いを寄せている営業課の高杉という優秀な社員を「出来杉君」と呼んでいます。
ある日、来留美から営業と経理間の職場飲み会が開催されるため、良香も来てと誘われます。
興味のない良香でしたが、来留美の強い説得もあり行くことにします。
しかし、やはり飲み会の席はどこか居心地が悪く、良香は乾杯後にすぐ席を離れてしまいます。
そこに「二」が近づいてきます。
「二」から距離をとろうとする良香、しかしそんな良香のことなどおかまいなしに、「二」は半ば強引に
2ショットの写真を撮り、それを送るからLINE IDを教えてと良香に迫ります。
その強引さに負けた良香は連絡先を交換し、帰宅後の夜、風呂上りに「二」の登録名で保存します。
その夜、良香は「イチ」に初めて話しかけたときの想い出にふけります。
放課後の教室、良香が教室に入ると、「イチ」が一人いて黒板に反省文をたくさん書きなぐっていました。どうやら先生から100回反省文を複写するよう言われているようです。
それを見た良香は、シンプソンズみたいと言い、「ひとつくらい違うの書いてもわからないんじゃない?」と「イチ」に話しかけ、「イチ」はそれに応えます。
1年後、美術部の部室で先生と話をしている良香、先生が誰かのノートを見て笑っています。その理由は「イチ」に反省文を書かせると、必ず1箇所、反省していないという文を紛れ込ませるからという理由でした。
良香との会話がきっかけとして生まれた悪戯を「イチ」がずっと続けていたこと、それに良香は精神的な繋がりを感じます。
その後、良香は「ニ」からデートに誘われます。
行き先は良香に任せるということで、行ってみたかったけど独りでは行きづらかったクラブでデートすることになります。
良香のことを知りたいという「二」のリクエストに応えるため、良香は自己紹介します。
江藤良香、10月生まれ、B型、雪国生まれ、~、そして白亜紀のアンモナイトの話をしだします。
興味のない「二」は話をさえぎり、彼氏がいないという部分に食いつきます。
アルコールが入って悪酔いしたのか、「二」はうるさいといって外に抜け出そうとします。
そのまま「二」はホテル街のほうに向かいだします。ついて行った良香も少しあせるのですが、「二」は結局吐いて、うなだれてしまいます。自販機で水を買って渡してあげる良香、「二」は泣き上戸のようです。
そのまま「二」は良香のことが気になりだしたきっかけを話し始めます。
それは半年前、会社で良香が営業課のほうに資料を持ってきた際に、赤い付箋を胸につけたままでいたことが印象に残っていたことがきっかけだということです。
また、この日の飲み会は、「二」が良香と自然に知り合えるように来留美にセッティングを依頼したということがわかります。
そして、良香は「付き合ってくだし」と「二」から告白されます(「二」の後ろでは「1回だけ1回だけ」という男女がいて、良香はその状況をカオスと感じています)。
良香は返事を保留しますが、「二」と別れた帰り道では人生初めての告白に舞い上がります。
その夜、学生時代の運動会を思い出す良香、誰かに体操服を引っ張られて後ろを振り向くと、「イチ」が「俺を見て」と良香を見つめています。それは何度も良香の中でリピート再生されている「イチ」との大切な想い出でした。
目を覚ますと部屋からボヤが発生していました。
何とか火を消し止めた良香でしたが、それをきっかけとして、生きる大切さを感じるようになります。
体操服の「イチ」ばかりを思い浮かべるのではなく、前向きに生きようと決意します。
そこで良香は海外に移住している同級生の名前を勝手に使ってSNSに登録して、「イチ」と再会するために同窓会を主催しようとします__
感想
自分の世界が優先で都合のよい妄想をしがちであるが、いざ実際の対人関係のことになると途端にネガティブになったり、人と距離を置きたくなるというある種の典型的なオタクの恋愛物語です。
まず目を引くのは主演の松岡茉優さんであり、ルックスが良すぎるのではという問題はあれど、社会より自分の都合を優先する電波系のキャラクターの見事な魅力に引き込まれます。
そして対人関係に関するこの作品の様々なギミックがとても好きだったりします。
例えば、良香が「二」と卓球をする場面があり、その後の別の場面でピンポン玉でラリーする効果音が登場します。
前半は互いに自分の意見を通そうとしていた二人でしたが、後半にはピンポン玉のラリーのように会話のやり取りをお互いがしようとするという成長が確認できます。
また、あだ名ばかりで人の名前を呼ぼうとしない良香ですが、この他人の名前に興味を持てないという姿勢は後に自分の方に痛烈な形で返ってきます。
さらに、「二」が良香に近づくために実施した出会いの場のセッティングや連絡先交換のための写真作戦は、良香目線で見たときにとてもうざく感じてしまうのですが、それを良香が実践する場面があるところもおもしろかったです。
上記のようにスピーディーな展開の中で非常にひとつひとつの場面に意味があるように感じ、観ていてとても楽しかったです。
松岡茉優さんくらいのルックスであればふるえていたら手を差し伸べてくれる人もたくさんいるかもしれませんが、普通は自分のために無条件に動いてくれる人などそうそういません。
対人関係が希薄になっているといわれている中で、考えされてくれる映画でもあります。
現実のイチがどうであろうと
私のこの10年はぜっったいに無駄じゃない
想い続けた私に美があぁあ
うっせえんだよ オカリナ!
辛気くせえだろ!__
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