小説 ~ あなたの本当の人生は ~



あなたの本当の人生は(あなたのほんとうのじんせいは)
著者名: 大島真寿美(おおしま ますみ)
出版社: 文藝春秋
発売日: 2014/10(2017/10)
ジャンル:ヒューマン




「あなたの本当の人生は」は大島真寿美さん著作、新人作家の女性、その彼女が憧れるファンタジー作家の女性、その秘書の女性、「書く」ことに囚われた三人の女性達が引き起こす出来事を通して、本当の人生について問いかけている小説です。

著者の大島真寿美さんは愛知県出身の作家であり、1992年に第74回文學界新人賞を受賞した「春の手品師」(※講談社文庫「ふじこさん」に収録)等の作品があります。

本作品は2014年に直木賞の候補作に選ばれています。



あらすじ


賞の受賞経験もある新人作家の國崎真美(くにさき まみ)は、この1年間、没原稿ばかりを量産する日々でした。

そんな折、新人賞受賞時に國崎の才能を見出した編集者の鏡味(かがみ)から、ベテラン作家である森和木ホリー(もりわき ほりー)の弟子になってみないかと言われます。

森和木ホリーは今でこそ原稿を書いていませんが、その作品には今でもアニメ化や映画化といった話があがり、海外でも人気のあるファンタジー作家です。

國崎は森和木ホリーの大ファンで、中学時代はむさぼるように彼女の書籍を読み、彼女の著書のひとつである錦舟シリーズについては、最終章の最後の文章を暗記しているほどです。


そうして広大で風変わりな森和木ホリーの屋敷まで鏡味とやってきた國崎、そこで森和木ホリーと彼女の家政婦兼秘書のようなことをしている宇城圭子(うしろ けいこ)と出会います。

ホリーは過去に結婚していましたが、20年ほど前、亭主に逃げられて離婚しています。

同じ頃、地方都市で公務員として働いた宇城でしたが、とある講演会にホリーが参加したことをきっかけとして、うちで働いてみないかとホリーさんにスカウトされます。

ホリーさんがスカウトした理由は、ホリーさんのその不思議で独特な感性によって、宇城を初めて見たとき、「ああ、この女、人を殺しているわ」と思った一方で、宇城が自分のもとで雑用をこなしている景色が自然と浮かんできたからです。

地方で公務員として特段に不満もなく生活していた宇城でしたが、「あなたの本当の人生は。」とホリーさんが呟いた一言、その刺激的な一言をきっかけとしてホリーのもとで23年間働き続きています。今いるところが本当の人生なのか、それとも捨てたのが本当の人生なのかはわからないままです。

屋敷には藁部屋と呼ばれる真っ白な部屋があります。宇城はホリーと國崎をその部屋に閉じ込めたら、國崎も「あなたの本当の人生は。」という言葉を聞くことになるのではないかと期待しているようです。

宇城は國崎にその屋敷でのルール、仕事を説明しながら屋敷を案内します。そして2階の住宅兼事務所に案内されたときに國崎は初めて森和木ホリーと対面します。


國崎が会った森和木ホリーは高齢な女性に見える一方で、幼女という言葉が真っ先に思い浮かぶような不思議な人でした。

そんなホリーが國崎に発した第一声は、「あなた、チャーチルに似てるわね」という、錦舟シリーズに出てくる猫に似ているという発言でした。

これをきっかけとして國崎はその屋敷内ではチャーチルと呼ばれることになります。


食事が終わってホリーさんが寝入った頃、宇城と國崎が二人になります。そこで國崎は宇城からホリーが小説どころかエッセイやコラムも今では書けなくなっていることを聞かされます。そして、宇城がゴーストライターとして、ホリーの近況を記載したエッセイを書いていることが伝えられます。

それを聞いた國崎は困惑し__



感想


書くことに捉われた三人の女性作家のそれぞれの視点から展開される世界です。

その内の一人、過去のヒット作を持つファンタジー作家はふわふわした言動をとることが多く、さらに周囲の二人もそれに多分に影響を受けているため、どこか不思議な感覚が作中ずっと漂っています。

一方で、主人公である國崎真美も、ホリーさんや宇城さんに一見振り回されているようで、実は芯が強く、二人に影響を与えたりします。

先の二人と比較すれば、宇城さんがどちらかと言うと普通の人に近い印象を持てますが(この小説を読んでいると、普通とは一体何なのかとも考えさせられるため、私の感性に近いといったほうが正しいのかもしれません)、このキャラクターがある種の読者へのホリーさんと國崎の代弁者の役割を果たしているように感じます。

ファンタジーという非現実的な要素を作中の小説として登場させ、作中作とすることで、“本当の人生とは何か”という哲学的な重くなりそうな命題をとてもいいバランスで描いていて読みやすかったと思います。


人生や書くということに本当も嘘もない、決して押し付けがましくなく、一方で登場人物が衝動的に追い求め続けている姿勢もわかり、バランスよく描いてあることが印象的です。
そして、おいしいコロッケが食べたくなります。



そもそも人生に横道も本道もないでしょ。
所詮ただの道ですよ、どこ歩いてても。
われわれはねえ、皆、獣道を行くんですよ、あなたもわたしも。
あいつもホリーさんも。





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