小説 ~ きのうの神さま ~



きのうの神さま(きのうのかみさま)
著者名: 西川美和(にしかわ みわ)
出版社: ポプラ
発売日: 2009/4(2012/8)
ジャンル:ヒューマン




「きのうの神さま」は西川美和さん著作、田舎や僻地の離島、閉塞的な家庭で生きている人々を描いた短編集です。

著者の西川美和さんは広島県出身で、小説家としてだけではなく映画監督や脚本家としても活躍されています。
映画「ゆれる」では監督と脚本を務め、ブルーリボン賞監督賞といった複数の映画賞を受賞されています。また、小説化した作品は2007年の第20回三島由紀夫賞の候補作となっています。

本書に収録されている作品「ディア・ドクター」も2009年に笑福亭鶴瓶さんを主役にして映画化されています。

「1983年のほたる」「ありの行列」「ノミの愛情」「ディア・ドクター」「満月の代弁者」の5編が収録されています。



あらすじ


市内へのバスが2時間に1本程度しか走っていない村に住んでいる小学校6年生の鵜飼りつ子、塾の帰り道、彼女しか乗客がいないバスに揺られています。

ふとバスの中で何かが聞こえたような気がしましたが、気のせいだと思い、りつ子は家族や塾の友人のことを考え出します。


成績優秀で美人の匂坂(さきさか)さん、特別女らしくて華やかな小倉さんといった村の小学校では見かけないような同級生たち、りつ子はそんな女の子達の影響を受けて前髪をいじったり、塾へ行く前の服装を変えたりしています。

りつ子には佐野さんという一緒に行動をすることが多い友人もいますが、彼女はいかにも田舎者っぽい感じがし、彼女とつがいの親友のように周りから誤解されることにりつ子はちょっとした恐怖も感じています。

また、りつ子は姉である佐希子から、市内の有名中学校を目指すりつ子が村のことをどこか見下しているという小言を受けます。

決して見下しているわけではない、学校の友達も家族も村の人も、ただ、変わりばえのしない風景、変わりばえのない人と同じように過ごすのは嫌だとりつ子は考えます。そして、決してその考えは自分だけではなく、村の人たちも同じように考えてきたことなのではないかとりつ子は帰り路のバスで漠然と考えています。


「りつ子さん」、今度ははっきりと聞こえたその声の主はバスの運転手からでした。

塾帰りの火曜と木曜の最終便でいつも見かけるバスの運転手、一之瀬時男という名札をつけた運転手が突然とりつ子に話しかけてきます__

(「1983年のほたる」)



感想


5編からなる短編、最初はまったく関連のない独立した話だと思っていたのですが、読み続けると狭い社会での閉塞感と医療がテーマにあるようでした。

過疎化や核家族化がある一面で社会問題化しているのは今に始まったことではありませんが、そこに居なければならない人たち、そこから離れようとする人たちの生活や心情を、決して大げさに感じないように描いていると思います。

その閉塞感から、気が滅入ったり、大きな起伏もなく淡々と進む作品もあり、直木賞候補となっているのが少し意外でした。

個人的には犬のトーマス君が出てくる「ノミの愛情」が好きです。


タイトルについて、5編の短編のどれかが表題作として小説のタイトルになっているわけではありません。

タイトルをつけるのが苦手だという作者のインタビューも見たことがありますが、本作品についてどこからこのタイトルをつけたのだろうと不思議に思い、それもまた一つの魅力なのかなとも思います。

孤島の医者は島民から慕われやすいといった閉鎖的な世界の中では神様が簡単に作られてしまう一方、それが実際はそれほどたいしたことではないことを暗喩しているのでしょうか、なかなか解釈が難しいタイトルだと思いました。


わたしが人と違うところがあるとしたら、
そんなことをうちの村で、
うちの家で、
考えているところだ。

いや、
でももしかしたらそれさえも、
この村の誰もが考えてきたことと同じなのかも知れない。






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