その女アレックス
原題: Alex
著者名: ピエール・ルメートル(Pierre Lemaitre)
訳者: 橘明美
出版社: 文藝春秋
発売日: 2014/9 (原題発表 2011)
ジャンル:サスペンス、ミステリー
「その女アレックス」はピエール・ルメートルさん著書、アレックスという一人の女性の誘拐事件、パリ警視庁の警部たちがその事件を追うことで明らかになっていく謎に関わっていく様子を描いたフランスのサスペンス、ミステリー小説です。
本作品は著者の「カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ」3部作の第2作となり、2012年にはフランスのリーヴル・ド・ポッシュ読者大賞ミステリ部門を、その翌年にはイギリスの英国推理作家協会のCWA賞インターナショナル・ダガーを受賞しています。日本では、このミステリーがすごい!2015の海外部門第1位を獲得しています。
あらすじ
豊富なヘアウィッグやヘアピースが揃っているストラスブールの大通りにあるお気に入りの店で一人ショッピングを楽しんでいる女、アレックス、30歳の彼女はあらゆる年代の男性を惹きつける魅力を備えながらも、恋愛に関しては諦めており、様々なウィッグをかぶって別人のような気分になる事をささやかな楽しみにしていました。
そんなショッピングを楽しんでいたアレックスでしたが、ふとショーウインドーのガラス越しにふと一人の男の存在に気づきます。
筋肉質でがっしりしていて、50代位に見える男、知り合いではないことに間違いない、そして、その男を地下鉄でも見かけていたことをアレックスはふと思い出します。さらに、その数日前にもアパートでその男を見かけたような気がして少し不安を覚えます。
男の姿が見えなくなったことを確認したアレックスは気分を変えて外食を楽しむことにしました。
その食事を終え夜道を帰ろうとするアレックス、バスで帰ることも出来ましたが、少し歩きたくなったアレックスは最終のバスを見送り、一人で夜道を歩きます。
すると、突然、アレックスは人の気配を感じると同時に何者かに襲われてしまいます、そしてアレックスは一人の男に監禁されることになります_
場面が変わって、パリ警視庁の犯罪捜査部、カミーユ・ヴェルーヴェンに部長であるジャン・ル・グエンから誘拐事件を担当するように命令が下ります。
カミーユは50歳の刑事です。母親はすでに他界していますが、世界的に著名で偉大な画家でした。しかし、母親が重度のニコチン依存症であった影響か、その子であるカミーユは身長が145cmしかなく、それがコンプレックスにもなっていました。
また、カミーユには誘拐事件に積極的に取り組めない理由がありました。それは4年前のとある事件が関係しています。
4年前、カミーユの妻であるイレーヌが自宅前で誘拐される事件がありました。カミーユは自ら捜査班を率いましたが、妻を発見したときには、8ヶ月の胎児とともにすでに手遅れの状態でした。
彼はその事件の影響で精神を病み、1年近く休職した後に復帰しましたが、それ以降、第一級殺人の捜査を断ることにしています。彼は第二級や第三級の殺人事件、つまり、事件の被害者が疑いなく死んでいる事件、過去の死を扱うのみとなっています。
しかし、初動が重要な誘拐事件に於いてはカミーユの都合などかまっていられないのが実情です。もしくは、ひょっとしたらいつまでも過去の事件に囚われているカミーユに対するグレンの考慮があったのかもしれません、とにかく、出張中で不在の捜査官の一時的な代理としてカミーユは事件に取り組むことになります。
現場にはかつてのカミーユ班に所属していた部下であるルイがいました。ルイは働かなくても金利だけで生きているほどの金持ちである一方で、好奇心が旺盛で勤勉な優秀な捜査官でした。
今回の事件でカミーユと久しぶりに捜査を再び共にすることとなります。
また、捜査が進展していくなかでカミーユがグレンに増員を希望した結果、アルマンも捜査に加わることになりました。
彼もまた、ルイと同じく、かつてのアルマンの部下であり、10年近く同じ班として行動を共にした同僚です。
アルマンは恐ろしく痩せていて、病的なまでの倹約家である一方、仕事面では疲れを知らない働きアリで一目置かれています。
そして、美術愛好家のアルマンはカミーユと同じく、カミーユの母も尊敬しています。
3人が再び同じ班として事件を追うことになりました。しかし、事件現場当時の目撃情報から端を発したこの事件、被害者側の情報が思うように集まりません、そうしているうちに誘拐事件は意外な方向へと進んでいくこととなります_
感想
どうやって犯行に及んだのか、なぜ犯行に及んだのか、といったミステリー要素があり、このミステリーがすごい!の受賞作品ですが、サスペンス的な展開を楽しむ作品だと思います。基本構成は誘拐される女アレックスの視点と、過去に誘拐事件で大きな傷を負い、新たな誘拐事件を追うことになる警部カミーユの視点のマルチサイト進行となっています。
二人の線が近づいたり遠ざかったりする中で最終的に辿りつく点については感慨深いものもありました。
警部側のトリオも魅力的でサブストーリー的な部分もおもしろかったです。むしろこれがシリーズ物ということであれば、そちらがメインストーリーだったりするのかもしれません。
もう少し補足して欲しかった点としては、作中の犯人が選択した行動の動機の部分です。
あれだけの行動力と意思を持った人が、もっとも大切な部分を不確定な出来事に委ねたことには少し違和感を覚えます(最後の警察側の台詞的にも運命を天秤にかけたとしか思えません)。
例えば、少しは相手に対する感謝の気持ちがあり迷いもあったとか、それとも計画は完璧だと確信する理由があったとか、それらの点で補足が欲しかったと思います。
邦題もいいタイトルだと思います。どこかのタイミングでタイトルを回収するのではなく、読み進めるほどこのタイトルしかないなと思えるのは珍しい形だと思います。
われわれにとって大事なのは、警部、真実ではなく正義ですよ。そうでしょう?
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