小説 ~ 冥土めぐり ~



冥土めぐり(めいどめぐり)
著者名: 鹿島田真希(かしまだ まき)
出版社: 集英社
発売日: 2012/7(2015/1)
ジャンル:ヒューマン




「冥土めぐり」は鹿島田真希さん著作、裕福だった過去にすがり浮き足立った母親と弟を持つ女が、車椅子を利用する夫と共に過去の家族との思い出の地を訪ねるヒューマンドラマ小説です。

著者の鹿島田真希さんは東京都出身の作家であり、他の著書に、2005年に三島由紀夫賞を受賞した「六〇〇〇度の愛」、2007年に野間文芸新人賞を受賞した「ピカルディーの三度」といった作品があります。

本作品は2012年の第147回芥川賞を受賞しています。この結果、鹿島田真希さんは笙野頼子さん以来の純文学新人賞三冠作家となりました(※その後、本谷有希子さんと村田沙耶香さんも続いています)。

尚、文庫本にはシスターコンプレックスを持つ末妹の視点で、不思議な4姉妹の環境を描いた「99の接吻」も収録されています。



あらすじ

一月の終わりに町内の掲示板で見たポスター、二月の平日限りという条件の下、格安で区の保養所が割引で利用できるというお知らせを見て、奈津子は一泊二日の小旅行を決意しました。

そこは奈津子が8歳のときに両親と弟の四人で出かけた高級リゾートホテルであり、奈津子にとって思い出の地でもあります。 ただ、奈津子にとってその家族は、裕福だった過去に執着し、過度に娘に干渉し自身の願望を押し付けてくる母親と、裕福だった過去にすがり、支離滅裂な妄想をして、外面だけ裕福な振舞いをしては借金を重ねていく4歳年下の弟という、自分たちの世界で自分たちだけの価値観で自分たちだけが特別だと感じている災厄な存在です。

そして、奈津子には太一という夫がいます。

太一は結婚後の脳の病気により、四肢が不自由になっています。そして、他人の悪意に鈍感なところがあります。
奈津子は太一という体が不自由な新しい家族と共に、過去の家族の思い出の地に赴きます__



感想


タイトルについて、「冥土」の意味をgoo辞書で調べると次のようにあります。

仏語。死者の霊魂の行く世界。あの世。地獄・餓鬼・畜生の三悪道をいう。冥界。黄泉。よみじ。

あくまで過去の思い出の土地への一泊二日の小旅行ですが、奈津子にとって重要な意味を持つ旅行であることがタイトルからも推測されます。

娘が自分のために存在していると信じて疑わないいわゆる毒親と、見栄っ張りで自分が特別な存在であることを一遍も疑わない弟、他者に甘えて享楽を受けて当然だという姿勢には辟易します。

奈津子も、そうした家族に対する受容というよりは、諦観してしまっている姿勢にやきもきすることもあります。

何より、太一との結婚を魔が差したのだと言ってしまうあたり、奈津子にもどこかその家族の一員らしい部分があるように思えます。

一方で、そういった家族と対になるような形で奈津子と共に旅行している人物に彼女の夫である太一がいます。太一は四肢が不自由で鈍感な部分もあります。

そんな四肢が不自由で車椅子で行動している太一が、奈津子と対比する形で、家族でありながらも自分の意思で自由に行動している場面がいくつか見られます。
物理的に地に足がついていない太一こそが、この現実から目を逸らしがちなふわふわした家族の冥土めぐりの旅に重要な役割を果たしている点が楽しく読み進められた要因だと思います。

起承転結の起伏に乏しい物語にも関わらず飽きずに読み進められるのは文章力の賜物だと感じます。


そう。このサロンにはなにもない。見事になにもないのだ。あるのは喪失だけだ。




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