映画 ~ ナチュラルウーマン ~




ナチュラルウーマン
原題: Una mujer fantástica
配給: ソニー・ピクチャーズ・クラシックス(アルバトロス・フィルム)
監督: セバスティアン・レリオ(Sebastián Lelio)
脚本: セバスティアン・レリオ、ゴンサロ・マサ(Gonzalo Maza)
出演: ダニエラ・ベガ(Daniela Vega)
公開日: 2017/4(2018/2)
ジャンル:ヒューマン




「ナチュラルウーマン」は恋人である男性の突然の病死をきっかけに、周囲からの偏見・差別を受けるトランスジェンダーの歌姫の生き方を描いたヒューマン映画です。

チリ出身でスペインとチリの合作「グロリアの青春」等の作品も担当しているセバスティアン・レリオさんが監督です。

主演はチリ出身で、自身が役柄と同じくトランスジェンダーであり、歌手であるダニエラ・ベガさんです。

本作品は2018年に第90回アカデミー賞外国語映画賞を受賞しています。



あらすじ

サウナでマッサージを受けている一人の年配の男性、マッサージの後で会社に向かうその男性は服飾関係の社長のようです。
秘書に「白い封筒を見なかったか?」と尋ねる彼は、どこかで紛失した白い封筒を探しているようです。

その後でどこかのホテルへと向かう男性、彼は受付で白い封筒と便箋をもらってホテル内のバーに行きます。
そこではステージで一人の女性が歌っています。男性はその様子を眺めています。
ステージ後に二人はレストランで食事しています。女性の誕生日祝いのようです。

男性は女性にプレゼントとして白い封筒を渡します。中身は“イグアスの滝へ行ける権利”と書かれた手紙でした。
本来は航空チケットを渡すつもりだったみたいですが、サウナで置いた旅券をどこかに紛失してしまったようだということです。
女性はプレゼントを喜んで受け取り、食事の後は二人でクラブで踊り、キスをします。
そして、夜景の見える高層の部屋に移動して夜を共にすごします。

しかし、その夜、ベッドの上で目を覚まして何か変だと訴える男性、立ち上がろうとするとそのまま倒れてしまいます。

急いで病院に向かう準備をする女性、男性のほうは体が思うように動かせないようであり、女性が出発の準備のために少し目を離した隙に階段を転げ落ちてしまう状態です。

女性の運転で聖トマス病院に向かう二人、運び込まれた男性は57歳のオルランド、付き添いの女性はマリーナ・ヴィダルと名乗ります。

マリーナは医者の説明を受けに行き、その後女子トイレに入り、一人ひざまずきます。
男性は動脈瘤が原因で息を引取ってしまいました。

誰かと電話しているマリーナのところに警察官が来ます。警察官に名前を名乗り身分証を見せるマリーナですが、警察官に怪訝な顔をされます。身分証には別の名前が記載されています。
マリーナはトランスジェンダーとして、法律上の名前と別の名前を名乗りながら普段の生活を送っているようです。

最愛の人の突然の死、しかし翌日以降マリーナに待ち受けていたのは彼の元妻や親族、警察のトランスジェンダーに対する偏見と差別でした__



感想


トランスジェンダーをテーマに扱った作品であり、全体的に雰囲気が重いです。
マリーナという一人の人間の生き様を感じる話であり、偏見や差別に対しての痛快なカタルシスを期待してはいけません。

理解できない人程仲良くするのは難しい、そういった観点ではオルランドの遺族のマリーナに対する拒否反応はわからなくはないのですが、どこかで妥協点を見出すことはできないものなのかと見ていて思いました。

マリーナの視点で見ているからこそわかる、見える、感じるものがあり、そういった部分だけでもこの映画を観てよかったと思います。

演出面では、作中に時折見られる映画的すぎる一部の演出についてはこの映画の重苦しい雰囲気には合わないなと私は感じました。
死んだオルランドの姿が見えたことや鏡に映るマリーナの演出はすんなりと受け入れられたのですが、向かい風に立ち向かう場面とクラブで自分が中心となって踊っている場面の演出は過剰に感じました。

ただし、この作品はストーリー本筋とは別にそういった演出も楽しめる作品となっています。例えば、アルゼンチンとブラジルの二国にまたがるイグアスの滝の映像や台詞が出てきますが、これはトランスジェンダーの暗喩と捉えられますし、LGBTのレインボーフラッグを連想させる虹の演出等、作りこまれている場面がいろいろとあるようです。

アメリカでのタイトルは「A Fantastic Woman」、つまり邦題は変更されていることになります。
この変更については、好意的な解釈にもとれる一方で、皮肉的にも捉えられそうなので個人的には微妙な印象なのですが、作中で使用されている1960年代にヒットしたアレサ・フランクリンさんの曲のタイトルがナチュラルウーマンということで、そういった部分からもこのタイトルを用いているようです。





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